研究課題/領域番号 |
17K02633
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研究機関 | 長崎外国語大学 |
研究代表者 |
田口 武史 長崎外国語大学, 外国語学部, 教授 (70548833)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パトリオティズム / ヘルダー / ゲレス / 神話 / インド‐ゲルマン / Volk / Nation |
研究実績の概要 |
汎愛主義の思想に関する予備考察として、18世紀末から19世紀初頭にかけてのドイツにおける知識人の〈パトリオティズム〉を探るべく、ヘルダーおよびJ. ゲレスの神話論を、同時代のVolk/Nation概念およびインド‐ゲルマン人の観念を踏まえて検討した。 ヘルダーは小論「イドゥーナ、あるいは若返りのりんご」(1796)において、ドイツ文学は北欧神話にも目を向けることで、新たな活力を得ると主張した。この提案は、北欧神話ないしゲルマン神話がドイツで認知される重要な契機となったが、ヘルダー自身は北欧神話が即“ドイツの神話”であるとは考えていなかった。むしろドイツ神話の不在が彼の前提であり、その代償となることを北欧神話に期待したのである。一方『アジア世界の神話史』(1810)を著したゲレスは、古代インドに発する多分に空想的な文明史を描いた。その際彼は、古代アジアと現代ドイツとの遥かな懸隔を、反復する自然と女性のイメージを多用しつつ結び付けようとした。そうすることで、厳しく男性的な創世記からは感じ取ることができない、歴史の有機的連続性を示そうとしたと考えられる。 両者は、VolkないしNationの存在基盤を求めて北欧・アジア神話へ関心を寄せ、神話によってインド‐ゲルマンという抽象的な枠組みを顕在化させようとした。それは、聖書やギリシア神話に基づく伝統的な世界観、歴史観に対するアンチテーゼであると同時に、帝国と領邦の間を揺れ、行き先が定まらないドイツ人のパトリオティズムに、共有しうるルーツを指し示す試みであった。 以上の考察を、神戸大学国際文化学研究推進センター研究プロジェクト「近現代における『神話』の史的展開と今日的意義」招待講演、日本独文学会西日本支部第69回研究発表会で口頭発表し、さらに論文として、植朗子ほか編『アジア遊学217 「神話」を近現代に問う』にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、汎愛派を特徴づけるキーワードである〈自然〉〈実用・実利〉〈コスモポリタニズム〉〈パトリオティズム〉の概念史を概観し、またそれらの啓蒙主義期における特性を検証する予定であった。しかし先行研究をとおして予想を超える検討課題を認識した結果、パトリオティズムに関する研究に終始する結果となった。また所属機関変更(2018年4月から)に伴う諸事も遅滞の一因となった。 ただし、いずれも巨大なテーマである上記の四概念を単年度で把握する計画にはそもそも無理があり、また具体的テクストの解釈に先立って各概念を俯瞰することも、必ずしも適当かつ効率的な研究手法ではないと思われる。 その意味で、本年度、神話論における〈パトリオティズム〉の表象を具体的に検討し、そこから他の概念との連関を洞察できたことは、今後の研究にとってむしろ有益な方向修正であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
汎愛派によるテクストを中心に、〈コスモポリタニズム〉と〈パトリオティズム〉の相克ないし混淆を浮かび上がらせ、そこに〈自然〉や〈実用・実利〉の概念がどのような作用を及ぼしているかを検討する。まず、汎愛学校設立の立役者であるバーゼドゥを研究対象とするが、彼については既に豊富な先行研究が存在しているため、これを用いて汎愛派に関する研究の現況を再確認することにも力を入れる。 研究成果は、学術雑誌における論文と学会における口頭発表で公表する(少なくとも各一本)。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中に所属機関の変更が決まったため、新しい所属機関での研究体制整備を見越して使用のタイミングをずらした。 次年度は新しい所属機関に不足している資料の購入のほか、ドイツのシュネップフェンタール・ザルツマン学校およびゴータ研究図書館ほかにて、学校史および書評誌・新聞記事を中心に文献収集を行う費用にあてる。
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