研究課題/領域番号 |
17K02640
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
緑川 英樹 京都大学, 文学研究科, 准教授 (30382245)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 銭鍾書 / 談芸録 / 黄庭堅 / 万里集九 / 帳中香 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国近現代を代表する古典学者、作家の銭鍾書(1910-1998)による詩論『談芸録』とその自筆ノート『容安館札記』を主たる考察対象とし、その中国文学と芸術に関する独創的な知見を手がかりとして、中国古典詩学の新たな可能性を模索するものである。 期間4年の3年目にあたる本年度は、引き続き本研究の基盤となる『談芸録』の会読を進めた。およそ隔月1回のペースで研究会を開催し、その成として詳密な訳注を作成中である。本年度は、第三十九条「キョウ定アンの詩(その二)」を『飆風』第58号(飆風の会)に発表した。 『談芸録』の訳注は、かつて1994年から1998年にかけて、同じ『飆風』誌上に五回連載して後、しばらく中断していた。2015年に連載が再開されて現在に至るが、途中、未刊部分がのこったままである。幸いなことに、当時研究会を主催していた荒井健氏(京都大学名誉教授)より草稿をご提供いただいたので、この部分についても緑川の校補を経て順次公表してゆく予定。現時点では、第二条「黄山谷詩補註(新補一~十)」の試行版を「飆風の会」HP上に掲載した。この条は、銭鍾書が任淵らによる山谷詩の旧注を丹念に読みこんで、その不足を補ったものであり、銭氏が宋代の詩人のなかで特に黄庭堅(号は山谷道人)に関心を抱いていたことが窺える。 実のところ、銭氏から遠く遡ること日本の室町時代、五山の学僧たちもまた任淵注に依拠しつつ、山谷詩に対する独自の解釈を試みていた。いわゆる「山谷抄」である。その中でも特に重要な万里集九『帳中香』の詩学文献としての価値について、国立清華大学開催の宋代文献新視野:研究課題及方法的反省與前瞻国際研討会にて発表した。現在、当該論文は国際的な学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『談芸録』の研究会は定期的に開催されており、訳注稿の作成もおおむね順調に進んでいる。紙版の雑誌掲載にとどまらず、ウェブ上にも試行版を順次掲載することにより、簡便かつ開かれたかたちで社会に還元することが可能になった。当初の予定に掲げた『容安館札記』の分析がいまだ具体的成果を見ないのは遺憾であるが、その一方、銭鍾書の山谷詩解釈、ことに任淵注に対する補注作業を検証する過程で、日本の五山僧による「山谷抄」にも関心が拡大しつつある。本研究としてはいささか派生的な課題ではあるけれども、これもまた「中国古典詩学の新たな可能性」を切り拓くに足る有意義なものであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
期間4年の最終年にあたる次年度は、引き続き研究会を開催して『談芸録』の会読を進め、雑誌およびウェブ上にて訳注を公表してゆく。また、銭鍾書の山谷詩解釈から啓発を受けるかたちで、日本の五山僧による「山谷抄」がいかに「中国古典詩学の新たな可能性」を切り拓くか、具体的には主に万里集九『帳中香』の詩学、および五山禅林における黄庭堅集の受容に焦点を当てて考察したい。なお、新型コロナウィルス蔓延の影響により、対面での研究会開催や学会参加が難しくなる可能性もあり、その場合はオンライン方式などを含め、適宜対応しなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
名古屋市蓬左文庫での文献調査が本年度内に完了しなかったため、文献複写費を次年度にまわしたほうが有効であると判断した。
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