本研究は、20世紀中国の代表的な古典学者にして作家の銭鍾書(1910-1998)による詩論『談芸録』とその自筆ノート『容安館札記』の知見を手がかりとして、中国古典詩学、ことに宋詩研究への新たなアプローチを試みたものである。 期間4年の最終年にあたる本年度は、世界規模におよぶ新型コロナウイルス蔓延の影響を少なからず受け、たとえば2020年5月に予定されていた国内の招待講演は翌年に延期され、7月に参加予定であった国際学会が開催中止となるなど、成果発表の機会をいくつか逸することになった。 本研究の基軸となる『談芸録』会読の研究会もまた対面式による開催が難しくなり、すでに蓄積していた訳注稿の修訂作業に大半の精力を傾けざるをえなかった。そうした情況ながらも、第三十九条「キョウ定アンの詩(その三)」は『飆風』第59・60合併号(飆風の会)に発表することができた。次号以降は、第四十条「袁蒋趙三家交誼」を連載する。未発表(遡及)部分の第二条「黄山谷詩補註」試行版も引き続き作成中であり、現在、新補11-20の整理増補が終わった。新補40まで完成したあかつきには、「飆風の会」HP上に掲載する予定である。 なお、2019年度に国際学会で口頭発表した「万里集九《帳中香》的詩学文献価値」については、論文として投稿後、査読・修訂を経て台湾の学術雑誌に掲載されることが決定した。当該論文中の山谷詩の句法や構造分析に関しては、銭鍾書の詩論から大いに示唆を受けている。
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