米国のボストン美術館には、「中国最後の文人」と称される呉昌碩の手になる「与古為徒」扁額が掛けられている。これは、当時上海在住の漢学者・長尾雨山が、ボストン美術館中国・日本美術部長であった岡倉天心に贈ったものである。岡倉は、ボストン美術館のために中国美術収蔵活動を行い、成果が高く評価されているが、その根底に長尾や呉昌碩の助力があったことを指摘し、岡倉の活動が中国の文人的教養に基づいた高度なものであったことを提示したい。このことにより、近代において画期的成果を収めたボストン美術館を舞台とする日・中・米文化交流の重要なる意義を明らかにできるであろう。 本研究目的を達成するための研究計画・方法として、主に以下の2点を行った。 第一に、岡倉天心、長尾雨山、呉昌碩を中心とする近代のボストン美術館に見る日中米文化交流に関する資料収集を行い、その分析、検討を進める。そのため、日本・中国・米国において、図書館・美術館等での研究調査を行った。 第二に、国内外の専門的知識提供者および関連研究者を現地に訪ね、インタビュー等を行った。そして、その成果を公表し、関連研究者とさらなる意見交換を行った。 研究期間中に、京都、奈良、中国浙江省安吉、杭州および上海、米国ボストンに赴き、研究調査を行い、成果を挙げ得た。また、関連研究発表は、「長尾雨山と書画文墨趣味ネットワーク」ほか10回行い、関連論文は、「ボストン美術館所蔵岡倉天心旧蔵漢籍について」ほか15本執筆した。
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