研究課題/領域番号 |
17K02650
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
平石 淑子 日本女子大学, 文学部, 教授 (90307132)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植民地化以前 / 文化の連続性 / 文化の断絶 |
研究実績の概要 |
今年度行った主な研究は以下に示す二点である。 (1)昨年度の研究成果を基に、清朝末期から民国初期にかけて、いわゆる関内から東北に多くの知識人がやってきたが、彼らの文学活動に強く影響を受け、文学史上東北における東北人の文学活動の肆矢とされる「吉林三傑」と呼ばれる宋小濂、成多禄、徐ダイ霖の3名に注目し、その活動と詩作に関する調査研究を行った。その中過程において、清末の東北に役人として入った多くの知識人が、いくつもの詩社を作って活動していた様が明らかとなった。各詩社や、そのメンバー、また彼らの作品については資料が少なく、未だ全貌を明らかにすることは困難だが、斉斉哈爾やフルンボイルなどの地で、ロシアとの国境警備の任にあった宋小濂に関しては、ある程度の資料が残されている。彼の作品及び報告書の類いには、東北の風景や、自身、及び当地の人々の生活などが書き込まれているため、彼の作品に重点を置き、彼の東北(故郷)に対する思いを中心として検討、分析を行った。そこから中華民国成立後も役人として東北に赴任した彼の詩が、民国成立を境に変化していく様を観察することが出来た事は収穫である。 (2)『盛京時報』掲載の「新詩」の収集と分析を、現在も引き続き行っている。当初は旧詩を対象にする予定であったが、最も保存の良い該報の旧詩には日本人の作品も多く、作者の出自を明確にできない。一方白話中国語を基盤とする新詩であれば、作者はほぼ中国人と限定してよいだろう。『盛京時報』には1923年から「新詩」欄が設けられ、関内の詩人達の作品の転載もあるが、東北現地の詩人達の作品も掲載されている。今後は『東北現代文学大系』(1996、瀋陽出版社)の情報と併せ、作者と詩の分析を進めていこうと考えている。さらにその他の東北発行の新聞を再度観察し、新詩を収集し、分析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」にも記したように、宋小濂という東北出身の詩人に注目したことで、19世紀末から20世紀初頭にかけての東北における詩を中心とした文化状況をある程度把握することが出来た。また、宋小濂の詩を分析することで、東北出身の知識人が民国成立をどのように捉えたのかを垣間見ることが出来、東北という地方と中央(民国政府)との微妙な立ち位置の違いを知り、東北という地域のある意味での特殊性を知ることが出来た。また、宋小濂に関する研究は、管見の及ぶ限り日本では未見であることも付け加えておきたい。 さらに上記、「前年度の進捗状況」にも記載したとおり、テキストを当初予定していた旧詩から新詩に変更するという若干の方針転換により、対象が絞られ、今後の研究の見通しがより明確になっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(最終年度)の研究として、以下のことを計画している。 (1)1920年代東北で発表された新詩に対象を絞り、そこに語られている内容を、「東北表象」に注目して分析すると共に、作者の出自をあきらかにする。『盛京時報』「新詩」欄については、学会で発表する予定で現在準備を進めている。 (2)(1)の分析結果を「満洲国」成立後の新詩と比較し、本研究の目的である「文化の断絶」及び「文化の連続性」に関する現時点での結論を導きたい。 (3)上記(1)(2)と同時に、同時期の日本人が東北をどのように見ていたかについて、作品分析を進めたい。これについても、学会発表を目標として、準備を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は主に購入予定の書籍(10万円余)の発行が遅れ、年度内に入手できなかったことによる。従って、必要書籍の購入を今年度に行うこととする。
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