研究課題/領域番号 |
17K02654
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
Lee HyunJun 小樽商科大学, 言語センター, 准教授 (40708369)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 崔承喜表象 / 「東洋」 / メディア / 朝鮮舞踊 / 写真 / 東洋 / 新女性 / 近代性 |
研究実績の概要 |
本研究は戦前日本で活躍した朝鮮の舞姫崔承喜を題材に、朝鮮舞踊の伝統をモダン・ダンスの領域の中で発展、継承していく形跡、さらにそのような崔の舞踊活動を支えて多くの日本の文化人たちとの交流を探るものである。 まず、研究計画に従い、初年度に集められた資料を検討・分析しながら、二年には日朝における崔承喜の視覚メディア表象研究を行った。具体的に当時朝鮮の近代性を表徴していたモダンダンサー崔承喜が登場していた映画や広告のイメージを分析考察した。なかでも映画『半島の舞姫』の宣伝のために行われたイメージ戦略を主に分析した。戦前昭和期の映画界に突然現れた崔承喜が、彼女自身朝鮮舞踊家としてのイメージを保ちつつも、さらにその領域を超え日本の大衆スターとして羽ばたく上で作り上げていくモダンなイメージを広告や写真、雑誌、新聞を通して発信する様子を明らかにした。特にこのようなイメージの発信により、崔承喜は「新女性」いわゆる「新しい女」のシンボルとして日本はさることながら、朝鮮においても社会的にその影響力が大きかった。例えば彼女のファッション(断髪、洋装、ハイヒール姿)や、結婚式などがメディアに連日のように報道され様々な話題を呼んでいたのである。このような崔承喜が体現した「近代性」は新しい生活様式、結婚の在り方など、大衆に支持され社会現象の一つとなっていった。 以上の視覚メディアによる崔承喜表象研究は2018月7月21日日本比較文学会北海道大会において、特別企画「日韓芸術の媒介者たちー近代における文化人の活動を通して」で報告した。その際の発表テーマは「モダン・ガール崔承喜をうつすー1930年代日朝におけるメディアの中の崔承喜表象」と題し、パネルディスカッションを行った。 後半の研究活動は主に単著『「東洋」を踊る崔承喜』(勉誠出版)に集中し、博士論文を元に修正加筆したものを2019年2月に刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年は当初の計画通りほぼ研究活動を進めることができた。科研の研究をこなしながら、さらに単著『「東洋」を踊る崔承喜』(勉誠出版)も同時に執筆し、2019年2月に刊行するなど、研究活動の年としては忠実であったと考える。しかし、本科研の研究課題のまとめまでには至らず、研究報告のみとなってしまっている点が心残りで、これは今年度中、別の形で投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法は、まず去年の崔承喜のメディア表象に関する論文の執筆にとりかかり、研究成果を報告していく予定である。 それから、最初の科研採択後に書いた研究計画にも言及していたが、後期から(2019年9月から1年間)サバティカル研修に採択され、渡米することとなった。そのため、研究計画を少し変更せざるを得なくなり、当初の研究計画であった石井漠と崔承喜関連研究のフィールドワークが難しくなり、これは文献調査によって追及していくことにした。 従って今年から来年度にかけ、アメリカにおける崔承喜公演記録や資料の収集を行い、その成果を論文や学会報告などで公開していく予定である。とりわけ崔承喜がアメリカに滞在した1938-1940年においてどのような活動を行ったか、戦時中のアメリカの中の日本や朝鮮に対する認識や植民地芸術へのまなざしなど、アメリカからみた日本と朝鮮、さらには帝国日本の植民地芸術への世界戦略などを中心に研究課題をさらに発展させたい考えである。 また、今年度の具体的な研究成果発表はこれまで取り組んできた崔承喜表象や日本の文化人との交流に関して、2019年度日本比較文学会第81回全国大会においてシンポジウム「近代日朝文化交流の再検討ー近代と伝統、都市と地方」で報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は単著の執筆のため、科研課題研究は7月の学会報告1件と、夏季休み時の韓国フィールドワークまでの時期に留まり、残りの後半の研究は単著執筆にほぼ時間を当てていた。そのため、平成30年度に要求した支出計画を予定通り行われず、後半の活動経費は令和1年に繰越し、今年の主にアメリカフィールドワークの際の研究活動経費として使用する予定である。
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