本研究は戦前の日本で活躍した朝鮮の舞踊家崔承喜を取り上げ、崔が民族芸術の主体性を日本で確保してゆく経緯、またそれを可能にした日本や朝鮮などの後援者・文化人たちとの関わりを、当時の資料を通して検証し考察するものである。 最終年度の2019年度には前半と後半に分け、前半はこれまでのフィールドワークで得た新しい資料の整理・検討を通して学会発表を通して公開し、後半はサバティカル研修期間に入るため、米国における崔承喜資料調査に集中した。特に米国における資料調査は次年度の新たな研究課題の布石としても活用できると考えており、続けて崔承喜関連の資料を積極的に調査してく予定である。 まず、2019年6月16日日本比較文学会第81回全国大会において、シンポジウム「近代日朝文化交流の再検討―近代と伝統、都市と地方」の企画に参加しまた報告も行った。その際の報告テーマは「朝鮮舞踊の創作をめぐる崔承喜の「朝鮮」文化表象」と題し、研究成果を公開するとともにシンポジウの全体的なテーマのパネルディスカッションを行った。 次に9月以降は米国のNew Yorkに所在しているコロンビア大学(Columbia University)にて資料調査及び検討を行った。同大学のC.V. Starr East Asian Libraryにおいて、崔承喜及び戦前の日朝文化交流や日本の対外文化宣伝に関して当時の資料を調査した。さらにNew Yorkにいる日本やアメリカに関して研究している研究家たちと交流しながら月一回研究会を行った。そこでは日本に限らず、アメリカや中国、そして韓国の文化や歴史、教育、さらに文学に到るまで多岐にわたる研究発表が行われ、自分の研究も紹介する機会を得た。そこでは学際的研究手法やより広い視野で俯瞰する力を養うことができたことは大きな成果である。
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