コロナによる補助事業期間延長申請のうえ、2017年度から継続的に取り組んできた文学者の伝記と肖像をめぐる横断的研究の最終年度として、とりまとめを行った。幕末から明治初期にかけて刊行された、前近代の文人たちの略伝と肖像画の集大成といえる『前賢故実』の分析論文、また、鴨長明と兼好法師の肖像をめぐる論文を執筆中であり、いずれもまもなく発表の予定である。 2023年1月からは、東京大学連携研究機構ヒューマニティーズセンター(HMC)において「「顔」は何を語るのか――過去から未来へ」と題する協働研究も新たに発足させ、研究代表者を務めている。心理学や情報学などの異分野の研究者と議論を行い、鎌倉時代の絵巻「公家列影図」をめぐる新知見については、日本心理学会大会で協働研究の成果を発表するに至った。これから個人で発表する前述の論文にも、他分野の研究者との議論の内容を反映できる見込みである。 HMCではオープンセミナーも開催し、大正時代における「美人」の基準と和歌文化との関係を論じた。容貌の評価と詠歌の内容の評価とがいかに結び付くのかという問題を、大正時代を具体例とし、前近代と近代との連続性と不連続性を考察したセミナーでの発表内容も、近日中に活字化する予定である。 また、2023年12月には、美術研究誌『國華』の発行維持等に努める文化振興団体である國華清話会が主催する台湾見学会に参加し、国立故宮博物院、同・南院、台湾大学芸術史研究所、何創時書法紀年会を訪問した。この調査・見学により、伝記の絵画化の問題について、東アジアの広がりの中で考察する機会を得た。
|