研究課題/領域番号 |
17K02659
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北田 信 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (60508513)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 演劇 / ネパール / ネワール語 / カトマンドゥ盆地 / バクティ / 伝統芸能 / 民族音楽 / チベット・ビルマ諸語 |
研究実績の概要 |
9月にネパール・カトマンドゥを訪れ、タモート博士の協力のもとジャガトプラカーシャ王のネワール語歌集の写本を解読した。この中に、ヒンドゥー伝統暦カルティク月に行われた演劇祭のことが言及されており、現在のカルティク・ナーチ演劇祭の起源であると思われる。また、アシャ古文書館に保存される、ネワール語最古の戯曲と見なされる『パドマサーガラ』の写本を調べた結果、幾つかのベンガル語の歌詞が含まれているのを見つけ、その中の1歌をチョンディダシュ作『クリシュナ賛歌』(推定14世紀)と同定できた。その他の歌詞も『クリシュナ賛歌』に類似しているが、同定するまでには至らなかった。ただし、2歌については、別のベンガル語戯曲写本にも記載されていることを確認した。つまり『クリシュナ賛歌』由来の歌詞や、それと同じくらい古いと思われるベンガル語の歌詞群が、カトマンドゥ盆地の劇作家達の間に広く流布していたことが示唆される。また、これらの古いベンガル語歌群が、ネワール語劇が出現する時代でもまだ歌われていたという事実が確認できたことも、従来の常識を覆す発見であると言えよう。 11月にはファルピン村を訪れてカルティクナーチ演劇祭を調査した。今回上演されたのは、12年に1度行われる特別な演目『12人の娘』であり、これはファルピン村と住民バラミ族の起源を説明する縁起譚である。これによると、インド東部カーマルーパ出身の夫婦が12人の娘を連れてインドのさまざまな聖地を巡りながらファルピン村に辿り着いた、というのである。 以上の研究結果をもとに、10月南アジア学会全国大会で発表を行った。また、フランス国立東洋言語研究院およびSOAS(ロンドン)のそれぞれに招待され講演を行った。 解読した写本とそれに伴う文献学的発見については、研究雑誌『南アジア古典学』に掲載されたほか、阪大ディレクトリOUKAにてオンライン公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャガトプラカーシャ王作のネワール語歌集について、全500歌のうちおよそ460歌を解読することができた。また、アシャ古文書館所蔵の最初期のネワール語戯曲『パドマサーガラ』写本の中にベンガル語詩人ボル・チョンディダシュ作『クリシュナ賛歌』の歌詞が含まれていたことは予期せぬ重要な発見であり、『クリシュナ賛歌』が中世マッラ王朝のネワール語劇形成期に少なからぬ影響を及ぼした可能性を示唆している。したがって、進捗状況をポジティヴに評価してよいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
タモート博士の協力のもとジャガトプラカーシャ王作のネワール語歌集の解読を進める計画である。 万が一、ネパールにおける現地調査が難しい場合には、これまでに解読した部分の校訂テキスト作成、および、ジャガトプラカーシャ王作のミティラー語戯曲の研究を行う。
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備考 |
「研究成果」欄に研究報告書として挙げたもののうち特に重要な3点のリンク(阪大ディレクトリOUKA)を、再度ここに記載しておく。
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