研究課題/領域番号 |
17K02659
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北田 信 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (60508513)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ネワール / 演劇写本 / カトマンドゥ / チベット・ビルマ語 / バクタプル / ネパール / ミティラー語 / マッラ王朝 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、ネパール・バクタプル王ジャガトプラカーシャ・マッラ(以下JPM王と略す)が作った500余のネワール語歌詞を収めた歌詞集成を翻訳した。この歌集に収められた歌詞は全て、JPM王が著した複数のネワール語戯曲の挿入歌である。今年度は、そのうち『ルクミニー姫誘拐』劇の挿入歌を主に分析した。『ルクミニー姫誘拐』伝説は、カトマンドゥ盆地南端の山村ファルピンに伝承されるカルティク・ナーチ演劇祭の演目に含まれ、実際に2017年11月に上演された。17世紀のJPM王が著した戯曲挿入歌群の内容と、現代のファルピン村の上演される演目の間には、多くの共通点が見られる。 JPM王が、外来の雅語ミティラー語(インド・アーリア語系)だけでなく母語ネワール語(チベット・ビルマ語系)を用いて戯曲を著し始めたのは、晩期のことであったが、その契機は、親友・詩人チャンドラシェーカラの死であったと考えられる。今回扱った歌詞群においても、物語の筋そのものはハッピーエンドであるにもかかわらず、唐突に厭世観、人生に対する虚無感への言及が見られ、JMP王の喪失感の大きさを示している。一方、この時期は、南アジアで全般的に、諸地方の支配者がパトロンとなって、地方語による文芸を振興した時期と重なり、カトマンドゥ盆地の他の2都市(カンティプル、ラリトプル)でも、それぞれの王たちによりネワール語戯曲が書かれ始めていたようである。JPM王の母語による著作は、超域的な大潮流と個人的な悲痛が交わった特異にして興味深い現象であるといえる。 これと並行して、JPM王のミティラー語戯曲『暁姫の誘拐』および、JPM王の著作活動の前提となっているマッラ朝時代の演劇写本・歌詞集の研究(特にCandidas, Vidyapatiの歌詞集)の校訂作業を行った。またネパール音楽(南アジア古典音楽理論)の研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
依然としてコロナ感染による社会的混乱が収束せず、ネパール現地調査および現地の研究者との共同研究による写本解読作業を実施することができなかった。 ただし、写本の校訂作業は従来通り継続している。また、オンライン・ミーティングが普及したことにより、マッラ王朝の文芸活動に強い影響を与えたインド北部(ブラジ・バーシャー)および東部(ミティラー・ベンガル語)の抒情文学に関して、海外の研究ワークショップに参加し、世界中の専門家達と交流することにより、新たな広い視点からネワール文学を捉えなおすことができた。したがって、研究進捗状況はやや遅れているものの、意義は少なからずあった、と考える。
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今後の研究の推進方策 |
最近になって、海外でのコロナに関する諸制限は緩和・撤廃されつつあり、今年度は海外渡航により現地調査が可能になるものと期待している。 また、海外渡航をしなくても実施可能な、写本の研究(解読・校訂作業)の方は、従来通り進めていく予定である。これまでに解読・分析の完了したテキストの量は既にかなり蓄積されており、さしあたっては、それらを校訂テキストの形で公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナによる海外渡航制限により、ネパールにおける調査を実施することができなかったことが理由である。次年度、渡航制限が緩和され次第、現地調査を行う予定である。
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備考 |
(1)はバングラデシュの学術雑誌に掲載された論文を、阪大リポジトリ(OUKA)で公開したもの。(2)は、バングラデシュの学術雑誌に掲載された論文を、Researchermapで公開したもの。
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