本研究は、ミャンマー連邦共和国内外で研究蓄積が十分とは言えないビルマ語文学における他者表象の史的考察の一環として、日本占領期(1942-45)を題材とする小説に焦点を当てたものである。具体的には次の手順に従い研究を進めた。第一期・年代別考察期間では、2017年度に1950年代文学、2018年度に1960年代文学、2019年度に1970年代文学における日本占領期小説の考察を済ませ、それぞれ論文にまとめた。その成果の上に立って、2020年度には、日本占領期を含む1930年代から1990年代を文学史的に総括し、1990年以降の軍事独裁政権の言論出版弾圧状況の実態報告とを併せた著書をまとめた。これはむしろ、第二期・通史的考察期における研究に該当する。2021年度以降は、1980年代から2020年までに出版された日本占領期ならびに日本関連小説の変容について資料収集と考察を進めた。これら40年間の出版物について、1980年代の長編1点短編7点、1990年代の長編5点短編4点短編集1点、2000年代の長編2点短編5点、2010年から2020年の長編3点短編9点を収集して、政治的・文学的背景とも合わせて精査し、2022年3月に論文「日本占領期ビルマ小説の40年(1980-2020)」をまとめることが可能となった。(3月末時点で査読中)これに加え、2021年2月のミャンマー国軍によるによる憲法違反の政権簒奪後増加した原稿依頼等に対応し、国軍の前身ビルマ独立軍を育成した日本のビルマ占領から現状を照射し、日本占領期文学の現代的意義の考察を深めている。2020年3月を最後として現地における資料収集と聞き取り調査が不可能となっているが、可能な方法を駆使して情報収集に努めた結果、予想を超える成果を獲得した。
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