研究課題/領域番号 |
17K02666
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
宋 恵媛 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60791267)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 米国資料調査 / ディアスポラ研究 / 翻訳研究 / マルチリンガリズム / 在日朝鮮人文学研究 / インタビュー調査 / アメリカ移民研究 / 米軍防衛語学学校資料館(モントレー) |
研究実績の概要 |
今年度は資料、聞き取り調査活動、論文執筆を中心的に行った。 在日朝鮮人文学関連では、1950年代の大村収容所の在日朝鮮人による『大村文学』発行当時を知るほぼ唯一の方である、浅田石二氏への聞き取りを行った。また、児童文学の草分け的存在である京都在住の韓丘庸氏に、1960年代からの在日朝鮮人文学運動についてうかがった。神戸華僑歴史博物館では、在日朝鮮人と密接な協力関係にあった1940,50年代の華僑の人々との交流関係や、両者の同時期の文化運動の類似点と相違点の知見を得た。 米軍通訳研究については、まず、米国モントレーの米軍防衛語学学校資料館で、朝鮮人米軍通訳および日系米軍語学兵に関する資料を集中的に閲覧し、今後の論文執筆の核となる情報を多く得た。ハワイ(科研費補助外)でも、関連資料の調査、関係者のインタビューを進めた。また韓国・仁川の韓国移民史博物館を訪問し、朝鮮の初期米国移民に関連する資料を閲覧し、韓国の視点からの米国移民たちの諸相を探った。神戸市立中央図書館では、入手困難となっている、米国の日系収容所に収容された新聞記者の手記を閲覧し、当時米軍通訳として監視役、検閲役を担った朝鮮系米人との関わりについて理解を深めた。その他、福岡の林えいだい記念アリラン文庫での調査では、さまざまな国や地域で行われた朝鮮人への聞き書き原稿に触れ、朝鮮人ダイアスポラ研究の視野を広げることができた。 これらの調査をもとに、在日朝鮮文学関連資料集の解説、米軍朝鮮人通訳の歴史的変遷の整理をした論文を執筆した。朝鮮文化通史を扱った英語圏の書籍の翻訳、刊行も行った。また、米国ハワイでのシンポジウムでは、在日文学研究の成果を発表した。これらを通し、1940年代から50年代にかけての朝鮮人の移動と文学の様相がより明確化し、今後のまとまった論考執筆の下準備ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料調査や聞き取り調査については、当初予定していた以上に、多くの成果を得た。 1950年代刊行の在日朝鮮人発行文芸誌『大村文学』や、1960年代の在日朝鮮人文学運動を直接知る方々から話を伺い、理解をより深めた。去年の目標だった、英語圏で書かれた朝鮮文化関連の翻訳書の刊行も実現した。 米国、韓国、日本各地で行った朝鮮人米軍通訳についての調査でも、新しい事実を発掘すると同時に、さまざまな資料館、博物館の訪問を通じて多角的な視点を得ることができた。それらの成果を、論文や著書の刊行を通じて発信できたことも、今後につながる足がかりとなった。当初の計画である「日本、朝鮮半島、 米国における、朝鮮人通訳、翻訳者の実態を実証的に解明」にあたって、大きく前進できた。同時に、「言語別分業的な傾向があり、地域や言語を越えてコリアン・ダイアスポラを捉える視点」を執筆作業によって血肉化していくための基礎も築けたと考える。その成果をまとめた論文をより多く発表できればよりよかったが、全体的にみれば、2018年度は有意義な研究を進めることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、まず在日朝鮮人文学関連では、2018年度に行った調査で入手した資料を含む、新たな資料集の刊行を目指し、今後の在日朝鮮人文化、文学関連研究のための土台を築く作業に一区切りをつける。また、これまでの在日朝鮮人文学研究の成果を、日本国内外に積極的に発信していく。韓国での在日文学関連書刊行も目指す。 米軍通訳については、前年度までに収集した膨大な資料を詳しく読み込みつつ、さらなる資料調査(米国国立公文書館、プランゲ文庫など)を行い、これまでの調査、理論研究の成果を論文にまとめたり、学会で発表したりすることで、日本の植民地統治下にあった朝鮮人の「トライリンガル」性の意味についてより深く考察する。その上で、朝鮮人通訳の全体像をとらえ、その存在の意味を探る内容の図書の刊行を目指したい。従来の地域的、時間的(戦前/戦後)な分断を超える空間軸を設定し、米国の影響も加えたより広い視野から近現代朝鮮文学を論じ、発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算違いのため今年度は5000円余ったが、すでにその分の物品購入計画がすでにあり、来年度ですべて使い切る予定である。
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