最終年度は、調査と並行して、成果発表にとくに重点を置いた。 調査状況については、米国・メリーランドの米国国立公文書館NARAでOSS文書等の資料調査を行ったほか、プランゲ文庫で占領期における、在日朝鮮人に関連する資料の再調査を行った。とくにNARAでは、朝鮮人米軍通訳たちに関する重要な文書を多数見つけ、これまで積み重ねてきた研究を大きく前進させることができた。また、ロシア・サハリンでは、高齢朝鮮人女性たちへの聞き取り調査を行った。このインタビュー調査を通して、1940年代から1960年代にかけてのサハリン朝鮮人たちの言語、文化、教育等に関して理解を深めると同時に、ディアスポラの言語や翻訳の問題を比較考察するうえで有効な、同時期の日本、米国のコリアン・ディアスポラたちとの比較の視座を得た。東京では、GHQにかつて勤務してい在日朝鮮人の方と、在日朝鮮人作家のそれぞれのご遺族にインタビュー調査を行った。 研究成果の発表については、今年度は口頭発表として、在日朝鮮人文学史や在日作家をテーマにした学会発表を東京、ソウル、サハリンで行った。また、韓国で在日朝鮮人文学史についての拙著を翻訳・刊行した。その他、これまでの米国や日本での資料、インタビュー調査の結果を用いて、米国内の朝鮮人米軍通訳、日本のGHQ内で働いた朝鮮人通訳それぞれについて論文発表を行い、今までほぼ手つかずだった朝鮮人米軍通訳の解明を大きく進めた。これら、コリアン・ディアスポラの多言語性を明らかにした今年度の成果は、今回のプロジェクトの一環として行ってきた、在日文学関連の資料集刊行や朝鮮文化に関する翻訳書刊行とともに、この三年間の集大成となるものである。
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