研究課題/領域番号 |
17K02667
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
井尻 香代子 京都産業大学, 文化学部, 教授 (70232353)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スペイン北部のハイク / グリーンスペインの自然観 / 「草枕」国際俳句大会スペイン語部門 |
研究実績の概要 |
2018年度末に,スペイン北東部ガリシア地方と北西部バスク地方にスペイン語ハイクの北部拠点があり,特有の風土や歴史に根差した文芸活動が活発に行われているとの情報を得ることができた。そのため研究計画を変更し,2019年9月初めに,サンティアゴ・デ・コンポステラ(ガリシア)およびパンプロナ(バスク)の現地調査に赴いて情報収集にあたった。 サンティアゴ・デ・コンポステラでは,日本ガリシア協会でスペイン語やガリシア語でハイクやタンカを出版している詩人6名にインタビュー調査を実施し、ガリシア州における日本伝統詩歌の受容、現地における普及状況について貴重な情報を得た。また、出版物などの提供も受けた。サンティアゴ大学および市内の書店では,日本の伝統詩歌に関する資料を収集した。 パンプロナでは,市内のヤマグチ公園内にあるヤマグチ図書館の司書、および同図書館で定例句会を実施している詩人8名にインタビュー調査を実施し、パンプロナ市と山口市との文化交流史、バスク州における日本の伝統詩歌の受容と現地の制作状況について広範な情報を得た。また、書籍やハイク大会、コンクールに関する出版物の提供も受けた。 また,今年度24回目となった<「草枕」国際俳句大会>に新設されたスペイン語部門の審査を担当し,選句を通じてヨーロッパやラテンアメリカの13か国から応募のあった188句に接する機会を得た。 今後は,季語や歳時記のシステムにより構築された自然観や世界観が,どのようにスペイン語文化圏で受容され,現地の価値観の変化に影響を及ぼしたのかを探る上で,これまでの2年間の調査に加えて,共時的・通時的な展開を示唆する資料を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度には,アルゼンチン共和国の首都ブエノスアイレス,北部のトゥクマン,山間部のサルタにおいて,①現地の詩人・作家 ②先住民伝承文学 ③日系文学の聞き取りと資料収集によって,多様な自然観の重なりを確認した。 2018年度には,スペイン沿岸部バルセロナ,中央台地カスティリャ・ラ・マンチャの調査において,現地のハイク作家との研究会を開催し,日本の伝統詩歌の歌論・俳論について意見交換を行った。ロマン主義,近代主義の流れとハイク・タンカ・センリュウにおける季題・季語の捉え方の違いが明らかになった。 2019年度には,グリーンスペインと呼ばれ,気候も言語・文化的背景も中央部と一線を画しているガリシア地方とバスク地方において,俳句や短歌がどのように受容されているのか,作品中に張り巡らされた季節感や自然観はどのように理解されているのか等について,聞き取りと資料収集を実施した。日本の詩歌における人間と自然の生態系の共存意識が受容され,スペイン語ハイク作品に表現されていることを確認できた。 いずれの地域においても,人間と自然の共生を様々な季語に表し,一つのシステムとして構築しようとする傾向が捉えられた。文化によって異なっていながら,スペイン語という共通語で結ばれたハイク制作活動が,季語とそのシステムによる歳時記をキーとして解き明かされる方向が見えてきたように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,地域的にも文化的に多様な諸地域に普及しているスペイン語ハイクについて実施してきた調査を,季語・季題の捉え方を軸として体系化し,論文として公刊する。 具体的には,スペインおよびアルゼンチンの現地調査によって蓄積された文献,資料の分析結果を,その相互関連性を含めて総合し,日本の詩論や歳時記が,スペイン語圏の各地でどのように受容され,スペイン語の短詩形ジャンルが成立したか,またその過程を通じてスペイン語圏の人々の世界観がどのように変化したかを解明する予定である。さらに,編纂過程にある「スペイン語歳時記」が,スペイン語世界の芸術観,世界観の再編成を可能にすることから,スペイン語圏の人々が,こうした新しい詩学と詩形に何を求め,何を表現しようとしているのかを探り,そこから導き出される現代スペイン語圏文化の特色についての考察をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
スペイン語圏のハイク歳時記構築プロセスに係る収集・整理を目的に、アルゼンチンやスペインの各地でテクスト収集やインタビューなど、フィールドワークを実施してきた。質量ともに豊かな資料を収集することができたが、それらを分類・整理し、成果をまとめるためにはさらなる時間が必要である。また、研究代表者はこれまでの2年間、学部長を務めており多忙であった。以上の理由から2020年度末までの期間延長を申請した。次年度使用額は、研究成果のまとめに必要となるレビュー謝金、論文投稿費用に充てる予定である。
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