研究課題/領域番号 |
17K02669
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
狩俣 恵一 沖縄国際大学, 総合文化学部, 教授 (60169662)
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研究分担者 |
田場 裕規 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (80582147)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 琉球語 / 琉球芸能 / 村祭りとシマ言葉 / 村祭りと芸能 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前年度に調査できなかった波照間島の調査を行った。天候不良のため、竹富町教育委員会(石垣市)の一室を借用して、波照間島の昔話・歌謡・芸能・諺の音声についての聞き取り調査を行った。なかでも、『竹富町史第七巻波照間島編』に記された家造りジラバ・昔トゥバラーマ節・巻踊り歌・ミンピカーの話・諺などの文字資料を現在のシマ言葉での発音を録音できたのは貴重な資料となった。 前年度に引き続いての与那国島の調査では、村踊りの芸能の復活事業の責任者と意見交換を行うと同時に、音声・身体の継承についての調査を行った。その調査では、与那国出身者の琉球古典舞踊家に「島の祭りの芸能についての思い」を伺うことができた。 琉球古典音楽の調査・研究では、野村流の古典音楽演奏家の勝連繁雄氏から貴重な専門的な知見を得ることができた。それは、三線演奏においては、斉唱が増えて独唱の機会が少なくなっているため、琉球古典音楽の伝統的な歌唱法に変化が起こっており、伝統的な精神性を意識する演奏家が少なくなっているということであった。また、そのことは近代は、座敷歌から舞台演奏へと変わったことと関連があろうと思われる。そして、この問題は、琉球古典舞踊弐おいても、群舞が増えていることと関連することであり、琉球古典芸能の継承者が個人芸としての意識が薄くなっていることとも関連すると思われる。 また、前年度に引きつづいて、琉歌・組踊・オモロの音読資料を検討し、琉歌・オモロの音読資料を作成した。そして、琉歌・組踊の古い音声資料のデジタル化を行い、その発音・抑揚などの音声のあり方について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究がおおむね順調に進展している第一の理由は、勝連繁雄氏から歌・三線の専門的知見を承ることによって、琉球古典舞踊にも共通する問題があることを認識できたことである。その問題とは、歌三線では斉唱、琉球古典舞踊では群舞が増えることで個人の芸というよりも、仲間やグループの芸能という意識が強くなっていることである。言い換えるならば、民俗芸能の村踊りに近い意識で古典芸能を行っているということであり、先祖の貴重な文化遺産に敬意をはらうという意識が小さくなっていることである。要するに、琉球・沖縄の中央文化の古典芸能においては沖縄特有の継承のあり方がみられるということである。 第二の理由は、地方の伝統文化の調査・研究では、与那国島の人々と協力して衰微しつつある与那国島芸能の復活への取組みを行っており、その筋道の見通しがたったことも進捗状況を好転させている。 また、アイヌ語及びアイヌ伝承の資料の調査費用をデジタル化作業に業務委託することで、デジタル化の進捗状況が好転し、前年度やや遅れていた琉歌・組踊の音読資料の作成が進んだこともおおむね順調に進展するようになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、琉球・沖縄の中央の伝統文化と地方の伝統文化の継承のための基礎的研究を行うことにあるが、その背景には琉球王国時代の首里中央文化が各地域に伝播し、祭りの中で村の芸能文化を育んできたことがある。中央の祭祀歌謡であった『おもろさうし』は村の祭祀の手本であり、琉歌を基にした琉球舞踊や組踊は村の祭りで踊られてきた。要するに、琉球・沖縄の中央文化と地方文化の共通基盤である書き言葉の琉球語(琉球文)を足掛かりとして本研究を進めている。 書き言葉の琉球語を学習するための『おもろさうし』『琉歌集』『組踊本』は、和文を基にした琉球文で書かれており、その言葉は中央語(首里語)である。また、中央語(首里語)と地方のシマ言葉は聞き分けることができないほど異なっているが、村祭りの芸能では、琉歌の歌謡はもちろんのこと、組踊のセリフ(唱え)も、シマ言葉化することなく、そのまま演じられてきた。 本研究は、そのことに着目し琉球・沖縄の古典芸能と地域の伝統文化の継承に役立てるために、それらの『おもろさうし』『琉歌集』『組踊本』を中央・地方の共通のテキストとし、音読の目安を提示する研究を進めているが、克服すべき課題が二つある。一つは、『おもろさうし』の音読は書かれたとおり和語的に発音するが、琉歌と組踊は琉球語的に発音することである。二つには、実際に音読すると、音読する人の個性が現れることである。特に、芸能家とアナウンサーではその違いは顕著である。したがって、前者の場合は和語的な発音のオモロと琉歌・組踊の琉球語的発音を記録し、後者の場合も芸能家とアナウンサーの発音を記録することとし、どちらを採用するかは今後さらに検討を進めることとする。
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