本年度は、現代韓国朝鮮語方言(慶尚道方言、延辺朝鮮語)固有語複合語アクセントに観察されるさまざなゆれ(個人差や、複合語アクセント規則からの逸脱等)の性質について、より詳細に明らかにするため、まず中期朝鮮語諸文献に現れた複合語アクセント資料を更に収集し、分析を進めた。その結果、15世紀中葉においては、(1) 一音節高調アクセント型(H-a型・H-b型)のうちH-b型が前部要素であり、後部要素が無アクセントクラス(L/LL)である場合、及び、(2) 前部要素が一音節上昇調アクセント型(R)であり、後部要素がR型/LH型である場合に、前部要素のアクセントが低調(L)に交替することを確認した。このことには、前部要素のモーラ数と、連続するLH調の回避(R調は一音節にLH調が実現したものと見られる)が関係していると考えられる。また、これらの複合語アクセント規則は、16世紀入り次第に規則性を失い、類推的にアクセント変化を起こしていることを明らかにした。延辺朝鮮語の複合語アクセントは、その類推変化がより進行したものと推定される。 それをふまえ、昨年度まで行ってきた、最適性理論に基づく分析について再検討し、複合語の前部要素・後部要素の音節数を考慮に入れた制約群を用いてシミュレーションを行った結果、延辺朝鮮語の複合語アクセント分布について、かなり正確に予測できることを見出した。 一方、慶尚道方言は、左方アクセントシフトによる音調変化のため、複合語アクセント規則における類推的なアクセント変化が妨げられ、全体的に前部要素のアクセント型保持というパターンが優勢になったという仮説を立てた。 以上の結果について、現在論文にまとめ、投稿する準備を進めている。
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