研究課題/領域番号 |
17K02677
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
秋廣 尚恵 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60724862)
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研究分担者 |
川口 裕司 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20204703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 話し言葉コーパス / 因果関係の接続表現 / 継起性を表す接続表現 / 通時的研究 / 共時的研究 / 談話標識 / コーパスのアノテーション / ジャンル |
研究実績の概要 |
(1)コーパスの整備:2015年度に録音した音声データを外注により全て転写終了。音声データと突き合わせ、転写の校正作業に入った。6月には、ボルドー・モンテーニュ大学のLabrune Laurence 教授、及び、オルレアン大学の Gabriel Bergounieux教授と、話し言葉コーパスのデータ処理の方法について意見交換を行った。 (2)接続表現の共時的研究:この部門の担当である秋廣は、因果関係の接続表現であるparce que に関して研究を進め、成果を5月の第52回ロマンス語学会で発表。11月にはボルドー・モンテーニュ大学にて招聘講演を行った。さらに、継起性を表す接続表現であるapresを取り上げ、新聞記事とインフォーマルな話し言葉のコーパスに現れる用法の違いについて、8月の国際学会APCLC2018にて発表し、論文を執筆。11月には、8月の内容をさらに深め、フォーマルな話し言葉、インフォーマルな話し言葉、文学作品、新聞記事の、4つのジャンルの比較研究に発展させ、オルレアン大学にて行われた国際学会で発表。3月にはオルレアン大学に赴き、接続表現を含む様々な談話標識とその分析方法について講演を行った。 (3)接続表現の通時的研究:この部門の担当である川口は、通時的コーパスに基づき、parce que,puisque,car の用法の変遷を記述する研究を開始した。11月には、パリ第3大学のJeanne-Marie Debaisieux 教授に会い、意見交換を行った。その成果は2019年に発表する予定。 (4)共時的研究と通時的研究の総合的研究:秋廣は、1960年代と2000年代の話し言葉コーパスを比較しつつ、継起的な接続表現apresの用法拡大と多義性を記述する研究を開始。川口も、因果関係の接続表現の通時的変化と多義性の関係について考察した。その成果は2019年に発表の予定。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)コーパスの整備、(2)接続表現の共時的研究、(3)接続表現の通時的研究に関しては、各担当者が海外の研究者との意見交換を積極的に行い、十分な研究を進めることができた。また、その成果についても、国内学会、国際学会の双方に積極的に参加して、発表することができた。 (4)共時的研究と通時的研究の総合的研究という本研究の最終的な目的に向けて、本格的な研究を進めるための布石として、今年度は、多義性と用法の変遷を見る具体的な試みをそれぞれの研究分担者が開始した。その成果は2019年に国際学会、雑誌論文などにおいて発表の予定である。 また接続表現のタイプとして、継起性を表すタイプと、因果性を表すタイプの2つを扱うことができた。来年度は、さらに、対比性、同時性の接続表現の記述に取り組みつつ、談話の一貫性を組み立てるテキスト構築の手段としての様々な表現の類型を考察する予定である。 今年度の研究では、談話標識の一つとして接続表現を考察した。談話標識についてはこれまでも様々な先行研究があり、テキストの構築や(間)主観性のモダリティの表現といった機能が指摘されてきた。接続表現が談話レベルでどのような働きをしているかという点について、詳細な考察を行うために必要な理論的基盤として、談話標識や、マクロ統語論の研究についての数多くの先行研究を読了し、検証した。このことにより、最終年度の研究への基礎固めを十分に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)コーパスの整備:今年度、外注で行った転写の校正を行いつつ、音声とのアライメントが可能なトランスクライバー形式のファイルに保存する。トランスクライバー形式のファイルはTXMで使用できるというメリットがある。TXMは品詞分解、コンコーダンス、統計作業を自動化で行うソフトウエアである。このソフトの使用により、コーパスの利用を容易にできるようデータを加工する。この作業は、秋廣が担当するが、一緒に作業を行ってもらう研究補助員を雇用する。 (2)共時的研究:(担当:秋廣)TUFSコーパスと、ESLOやORFEOなどの外部コーパスのデータとを比較しつつ、文体的、レジスター的なジャンルの違い、発話状況やコンテクストによって、どのような使用の違いが接続表現の用法の分布に影響を及ぼすかを記述し、その結果を論文にまとめる。 (3)通時的研究:(担当:川口)因果関係を表す接続表現 parce que, puisque, car の歴史的変遷と多義性の問題について引き続き研究を行い、その結果を論文として発表する。 (4)共時的研究と通時的研究の総合研究:(担当:秋廣)継起性を表す接続表現apres が、近年、対比や結果を表す用法へと拡大している点に着目。その変遷と多義化について、オルレアン大学の通時的話し言葉コーパスに基づき研究する。この研究はオルレアン大学の研究者と共同で行い、共著で国際学会で発表する(現在、審査中)。さらに、継起性から結果を表す接続表現へと近年、用法を著しく拡大している du coup について、TUFSの2005年のと2015年のコーパスを比較しつつ、記述し、さらに談話標識としての機能の拡大を語用論化の観点から説明することを試みる。 (5)パリ第3大学のJeanne-Marie Debaisieux教授をはじめ、この分野の専門家を招聘し、講演やワークショップを開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コーパスの整備について、今年度は、外注で転写を行う作業が3月末までかかってしまったために、校正やアライメントなどのデータ加工をするための作業時間が十分確保できず、研究補助を雇わなかった。したがって、この金額は、2019年度において、データ加工をする研究補助の雇用のための謝金として繰り越して使用する。
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