研究課題/領域番号 |
17K02681
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鄭 聖汝 大阪大学, 人文学研究科, 招へい研究員 (60362638)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 他動性の顕著性 / 中国語 / ヒンディー語 / 韓国語 / 日本語 / 言語間の相違 / 類型的特徴 |
研究実績の概要 |
昨年度に続いて今年度もこれまで得られた言語データの最終的なチェックを行うべく、より広範囲の母語話者を対象とした現地での言語調査ーー特にヒンディー語と中国語の検証ーーを目標にしていたが、コロナ禍で現地調査を実施することができなかった。やむを得ず、日本国内での調査に切り替え、ヒンディー語の母語話者2名を確保し、文構造や格標示システムに関する詳細な調査を行うことができた。中国語は台湾出身と香港出身の中国語母語話者2名の協力が得られ、受身文の成否やバ構文・二重主語文など、内容的により充実したデータを得ることができた。一方、韓国語は9月にソウル大学に出向いて直接中世語の状況を調べることができ、次年度に向けて、さらなる研究の進展を図ることができた。 これにより、中国語・ヒンディー語と日本語・韓国語における言語間に見られる他動性の顕著性(transitivity prominence)の相違を引き起こすいくつかの有意味な要因が発見でき、作業仮説を想定できる段階にまで研究を推し進めることができた。次年度は、この結果を以って、海外共同研究者の柴谷方良教授(ライス大学名誉教授)の協力を得ながら、さらなる理論的考察を深め、言語間の相違や類型的特徴を見極められる分析を推し進め、他動性に関する理論的貢献という最終目標に漕ぎ着けたい。 研究成果としては、研究成果公開促進費(学術図書)の支援を受けて刊行された鄭聖汝・柴谷方良(編)『体言化理論と言語分析』の出版とそこに収められた論文2本および鄭聖汝(2021)(大阪大学)など、合わせて編著の図書1冊と3本の単著論文がある。今年度計画していたプロジェクト(インド工科大学マドラス校でのワークショップ)はコロナの影響で中止されたため、残念ながら研究成果発表はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的なパンデミック状況の中、計画通りのフィールド調査は実施できなかったものの、日本国内でのヒンディー語・中国語の母語話者4名の協力により、これらの二言語の調査は順調に進められ、目標としていた内容をさらに深めることができた。つまり、質的レベルでの言語間の相違ーー文構造や格標示システムーーに関する詳細な調査ができたと判断でき、内容的にはむしろ良かったように思われる。また韓国語もソウル大学に出向いて中世語の調査ができたおかげで、日本語との相違がつかめられ、全体として概ね順調に進展していると評価できる。 以上、今年度の調査および実績により、次年度に向けて最終的な理論構成を進められる準備ができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、日本語・韓国語の他動性研究にもっと力を入れると共に、英語の調査とオーストロネシア諸語の資料収集のためにハワイ大学を訪れる予定である。また今年度調査した中国語とヒンディー語をもとに、さらにマレーシア語との比較・検証のために予定していたインドネシア語調査も行う予定である。もし現在のパンデミック状況が改善せず相変わらずマレーシア・インドネシアの渡航が許されない状況が続ければ、今年度と同じように国内での言語調査に当てる計画である。また最終年度となる次年度には、理論的な完成を目指して、海外共同研究者の柴谷方良教授(ライス大学)の協力を得てデータに基づいた理論的考察をさらに深めるとともに、言語間の相違や類型的特徴を見極められる分析を推し進め、他動性に関する理論的貢献という最終目標に漕ぎ着け、本研究の研究成果を提出できるように目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なパンデミック状況下で、計画通りのフィールド調査ができなかったため、旅費が多く余った。次年度は韓国のソウル大学およびハワイ大学を拠点に言語調査(韓国語・英語)を行うと共に、特にハワイ図書館ではオーストロネシア諸語の資料収集などを計画している。
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