本研究の目的は,言語現象を認知主体の主観性という認知現象および複数の認知主体間の 共同注意(間主観性)という観点から捉えなおすことである。本年度は新型コロナウィルスの影響もあり学会等で研究発表する機会を持てなかったが,これまでの研究成果をまとめた書籍を刊行することができた(町田 章・木原恵美子・小熊猛・井筒勝信 『認知統語論』くろしお出版)。特に,「第3章 日本語らしさと認知文法」(pp.111-157)と「第4章 概念の構築と格助詞スキーマ」(pp.159-213)において,主観性の問題の整理と事態内視点・事態外視点の提案,さらに,そのような二つの視点配置を成立させるコミュニケーションスタンス(同化型と対峙型)の提案を行い,これに起因する二つの間主観性の類型を行った。本書の出版をもって本研究の目的は一定の基準で達成されたと考えてよいものと思われる。また,本書の第5章においては,これまで研究を続けてきた日本語の「ラレル」の多義性および被害受け身における被害性の起源についても検討を行った。 また,米倉よう子(編)『意味論・語用論と言語学諸分野とのインターフェイス』開拓社の第4章(pp. 73-97)において,上記の間主観性の類型における同化型間主観性がもたらす語用論的現象について議論した。 最後に,菅井三実・八木橋宏勇(編)『認知言語学の未来に向けて』開拓社において,AIの発展に伴う英語教育の果たす社会的役割の変化とそれに連動して認知言語学の研究成果がより重要性を増していることについて議論した。
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