研究課題/領域番号 |
17K02684
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
熊本 千明 佐賀大学, 全学教育機構, 教授 (10153355)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コピュラ文 / 潜伏感嘆文 / 名詞句外置 / 名詞句の指示性 / 名詞句の定性 / 代用表現 |
研究実績の概要 |
本年度は、潜伏感嘆文 (Elliott 1971、Grimshaw 1979) のうち、特に、「名詞句外置」(NE)と呼ばれる構文 (e.g. It's amazing the height of that building. / It's amazing the odd people my sister knows.) (Michaelis nand Lambrecht 1994、1996) に注目して、文中における名詞句の意味機能を考察し、論文を刊行した。潜伏感嘆文には、潜伏疑問文と同様、wh節に対応する意味を持つ定名詞句が現れるが、こうした名詞句は、潜伏疑問名詞句と異なり、その意味特徴を統一的に捉えることが難しい。そこで、日本語の潜伏感嘆文を「潜伏命題文」に分類し、「変項名詞句」、「属性範囲限定辞」の概念の関与という点から分析した、峯島(2007)、西山(2013) の議論をもとに、COCA、NOW の二つのコーパスから得られた、NE構文における外置された名詞句の例を詳細に検討した。この調査により、外置された名詞句は、変項や、属性の帰される範囲が明示されている場合とそうでない場合があること、いずれの場合も、背後に、指定文、措定文の意味構造を想定することができること、また、変項や、属性の帰される範囲が明示されている場合には、対応する叙述文の形式 (e.g. The height of that building is amazing.) にも、意味上の差異が見られないことを明らかにした。構文文法の立場から、NE構文の外置された名詞句が尺度的な解釈をもつことを、Metonymic NP 構文の独自性と捉える Michaelis nand Lambrecht(1996) に対し、名詞句の意味機能というより一般的な視点からの説明が可能であることを示した点に、意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
潜伏感嘆文に関する研究は、主として平成30年度以降に取り組む予定であったが、興味深い文献や、データを入手することができたため、今年度、考察を進めることにした。学会発表を行う機会はなかったが、論文を執筆することにより、潜伏感嘆文に現れる名詞句の特性に関するこれまでの議論を見直し、問題点を整理し、変項名詞句の概念の適用範囲の拡張について、今後の検討の手がかりを得ることができた。中でも、潜伏疑問文には不定名詞句、数量詞表現が現れるのに対し(Frana 2010)、潜伏感嘆文には定名詞句しか現れないという観察は、変項名詞句の本質を探る上で重要な示唆を与えるものであり、今年度に予定されていた、指定文・同定文・措定文の文タイプの分類の精密化、文中に現れる名詞句の定性と意味機能の関わりの解明を、今後、行う際に、役立つものである。当初の計画とは異なるものの、コピュラ文の分析にとって重要な概念に関して新たな知見が得られ、一定の成果を上げることができたので、達成度は十分であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、前年度の研究の総括を行ったうえで、次の作業を行う。 (1) 29年度に行った潜伏感嘆文の考察を深め、NE の外置された名詞句のもつ、さまざまな意味特徴をさらに詳しく検討する。この名詞句が果たす機能は、潜伏疑問文・潜伏命題文・指定文と関わる変項名詞句、非標準的潜伏命題文と関わる属性範囲限定辞の、いずれかに限られるのかどうか、コーパス、インフォーマントから得られる資料をもとに、検証する。(2) 当初、29年度に予定されていた、日・英語のコピュラ文の分類の再考を行う。特に、コピュラの前後の名詞句の意味機能、語用論的機能に注目して、倒置指定文と、措定文の倒置形・提示文との相違、同定文と、倒置指定文・同一性文との相違を明らかにする。(3) 種々、提案されてきた焦点の概念を整理し、コピュラ文の情報構造の解明を進める。情報処理、情報効果に関して、機能・認知言語学の枠組み、関連性理論の枠組みによる説明の妥当性を検討する。(4) これまでの研究の成果を日本言語学会、日本語用論学会、国際学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 ワークステーションの購入を予定していたが、仕様等の検討が不十分なため、今年度は見送ることとした。また、慶應意味論・語用論研究会において依頼されていたトークの日程調整ができず、出張を行わなかった。このような理由により、未使用額を次年度に持ち越すことになった。 使用計画 (1) コピュラ文、名詞句に関連する分野の文献をそろえるため、言語学関係の図書を購入。50千円 (2) モバイルワークステーションを購入。380千円。(3) 研究成果を発表するため、国内へ出張。70千円 (4) 研究成果を発表するため、国外へ出張。300千円 (5)インフォーマントへの謝礼。40千円 合計840千円
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