研究課題/領域番号 |
17K02684
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
熊本 千明 佐賀大学, 全学教育機構, 教授 (10153355)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 指示的名詞句 / 変項名詞句 / 入れ替わりの読みと変貌の読み / 指示的用法と帰属的用法 / 事象様相と言表様相 / 作用域 / 潜伏感嘆文 / 名詞句外置 |
研究実績の概要 |
(1) 法助動詞を伴うコピュラ文(e.g. The first person to walk on the moon might not have been right-handed)の「反事実仮想の読み」における、変貌の読み「ニール・アームストロングは右利きでなかった可能性がある」と入れ替わりの読み「左利きの人と交代していたかもしれない」を検討し、この曖昧さは、主語名詞句が指示的名詞句であるか、変項名詞句が関与する名詞句であるか、という違いによるものであることを示した。これらの名詞句の特性は、whoever節を付加した場合に、itとs/heの選択に反映される。従来の、名詞句の指示的用法/帰属的用法、事象様相/言表様相、広い作用域/狭い作用域などの概念を用いた説明が不十分であることを明らかにし、論文として刊行した。 (2) 潜伏感嘆文の一種とされるNE(名詞句外置)構文(e.g. It’s amazing the height of that building)を再度取り上げ、The i-Web Corpusのデータを加えることによって、構文文法による従来の説明(Michaelis & Lambrecht 1994)の不備を指摘した。NE構文のbe動詞の後に表れる述語は、基準からの逸脱に対する感情的表現に限らず、客観的な判断を示す場合もあること(e.g. understandable, significant)、外置された定名詞句は、必ずしも尺度的解釈を要求しないこと(e.g. It is well-known the use that we give to these type of tools)を示し、潜伏命題文(西山 2013)の一種として、変項名詞句(西山 2003)の概念に基づく分析が必要であることを検証した。研究成果を国際学会、国内研究会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
変化文の解釈(変貌の読みと入れ替わりの読み)の検討については、今年度予定されていたit分裂文ではなく法助動詞を伴うコピュラ文を対象としたが、十分な議論を行うことができ、一定の成果が得られた。変化文の二つの読みを考察する際に、これまで混乱を招いてきた、名詞句の指示的用法/帰属的用法、事象様相/言表様相などの概念を整理したが、特定的/非特定的、個体/個体概念の区別については、取り上げることができなかった。また、こうした区別を明確にする上で、哲学、論理学の研究成果を参照する必要性があることが分かり、先行研究の調査が課題として残った。 もう一つの課題であった、NE(名詞句外置)構文におけるbe動詞の後に現れる述語と、外置された定名詞句の意味特性の解明については、述語との関わりにおいて、定名詞句を変項名詞句として解釈することが可能かどうかという観点から、特徴づけを行うことができたが、未解決な点が残されている。 さらに、もう一つの課題としていた、焦点の概念の精密化については、データは収集したものの、十分な考察を行うことができなかった。以上のことから、進捗状況は、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、前年度までの研究の総括を行い、さらに次の作業を行う。 (1) 法助動詞を伴うコピュラ文の、入れ替わりの読みと変貌の読みの相違をさらに詳しく検討する。この入れ替わりの読みは、値比較の変化文(西山 1995) とどのように関連付けることができるのか、it分裂文や、非コピュラ文も対象に加えて考察を行う。また、名詞句に関する、指示的名詞句/変項名詞句、指示的用法/帰属的用法、事象様相/言表様相、特定的/非特定的、個体/個体概念などの諸概念を整理し、可能世界意味論、状況意味論などの知見も取り入れて、定名詞句と法助動詞がもたらす作用域の曖昧性を説明する。 (2) NE構文における外置された定名詞句は指示的名詞句ではないものの、意味的に明らかに変項名詞句あるいは、属性範囲限定辞(西山 2013) である場合と、数量、種類、様態など、どの側面が問題となっているのか、意味の上では明示されていない場合がある。関与する側面がどのようにして理解されるのか、コーパスのデータを検討し、その解釈のメカニズムを探る。 (3) 倒置指定文と、措定文の倒置形、提示文の相違を明確にして、指定文を措定文の倒置形と関連付ける立場を批判的に検討する。倒置を可能にする条件として示されてきた、述語名詞句の定性、特定性、述語名詞句が表わすとされる集合の限定性などの妥当性を探る。また、これまでに提案された様々な焦点の概念 (提示的焦点/対比的焦点(Rochmont 1986)、同定焦点/情報焦点(E. Kiss 1998)、連辞的焦点/系列的焦点(田子内、足立 2005))を、広くデータを集めて検討する。 これまでの研究の成果を、国内外の学会で発表し、論文として刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワークステーションの購入を予定していたが、仕様等を検討した結果、購入に至らなかった。また、新型コロナウィルスの感染拡大により、予定されていた研究会(慶應意味論・語用論研究会)が中止となり、国内出張を行わなかった。未使用額は、次年度のワークステーションあるいはパソコン購入費、研究成果発表のための国内出張旅費、また、言語学、哲学分野の図書購入費に充てる計画である。
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