本年度は、コピュラ文の特性を関係節との関連において考察し、(1)先行詞が人を指す場合の関係代名詞の選択について、先行詞が主節の中でもつ意味機能と関係代名詞が関係節の中でもつ意味機能が異なる場合には、関係節内の意味機能を優先した選択が行われること、その際、語用論的推論など様々な要因が影響すること、(2)通常の自由関係節(e.g. He handed me what he had produced out of his pocket.)と、いわゆる透明的自由関係節 (Wilder 1999)(e.g. What could best be described as pebbles were strewn across the lawn.) の意味的、統語的な相違は、後者が、これまで言われてきたように「指定文」ではなく、むしろ「同定文」の意味構造を内在すると考えることによって説明が可能になること、また、様々な文献における指定文、同一性文、同定文の混同には問題があること、を指摘した。 本研究課題を通して、名詞句の定性と名詞句が文中でもつ意味機能の問題を、特に名詞句の指示性、特定性の観点から考察した。取り上げたのは、コピュラ文、存在文、分裂文、倒置構文、変化文、潜伏疑問文、潜伏感嘆文、NE(名詞句外位置)構文、主語接触関係節を含む構文、透明的自由関係節を含む構文等に現れる名詞句である。指示的名詞句における特定性、非特定性の区別、非指示的名詞句における叙述名詞句、変項名詞句(西山 2003)の区別に加え、指示的名詞句の個体指示性、特徴記述性の相違も考慮することにより、これらの構文の諸特徴を無理なく説明できることを示した。コピュラ文に現れる名詞句の意味機能を整理することから始めて、他の構文の意味構造の解明にも貢献する、意義深い観察、検討を行うことができた。
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