最終年度である2019年度には日本語は語頭閉鎖音,韓国語は語中閉鎖音についてそれぞれの母語話者を対象に知覚実験を行った。 日本語の語頭閉鎖音については,昨年度までの研究で東北,中部,近畿,九州のいずれの地域も有声性に関わる音響徴としてVOTが一次的、後続母音のfoが副次的に用いられていることを確認した。本年度の目的はこれらのパラメータが知覚においても有効であるかを確かめることである。実験は自然音(実験1)と合成音(実験2,追加実験)を用いて東北,関東,中部,近畿出身の大学生55名を対象に行った。実験1では,マイナスのVOTをもつ有声音はほぼ有声音と知覚されるが,プラスのVOTをもつ場合はどの地域の聴者も正答率は62~70%で低く,語頭閉鎖音の知覚が主にVOTを手がかりにして行われていることが示唆された。VOTとfoを段階的に操作した合成音を用いた実験2でも,地域と関係なく,有声か無声かの判断は基本的にVOTのみで行われ,産出で見られるようなfoの関与は認められなかった。中部地域を対象にした追加実験では,VOTが0msでVOTによる判定が困難な場合は低いfoを有声音,高いfoを無声音と知覚する傾向が見られたが,知覚の手がかりとしてのfo効果は極めて限定的と言える。これらにより日本語の語頭閉鎖音は,産出では後続母音のfoを必要とするが,知覚ではもっぱらVOTのみが用いられ,産出と知覚のパラメータが一致しないという結論に至った。 韓国語の語中閉鎖音については,産出時の音響特徴であるVOTと閉鎖区間を段階的に操作した合成音を用いてソウル方言話者34名を対象に行った。知覚におけるパラメータの使われ方は産出の場合と同様で,長いVOTをもって激音と知覚し,短いVOTと長い閉鎖区間の音声を濃音,短いVOTと短い閉鎖区間の音声を平音と知覚することを確認した。ここでは産出と知覚の結果が一致した。
|