研究課題/領域番号 |
17K02686
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
小笠原 奈保美 群馬県立女子大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (50630696)
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研究分担者 |
甲村 美帆 群馬県立女子大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (50345419)
大藤 建太 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (80549303)
Ginsburg Jason 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (80571778)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 災害コミュニケーション / 正常化バイアス |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実施計画は、中村(2008)の避難のオーバーフローモデルの中の危険認知の要因とそれに付随する促進・抑制要因が避難の呼びかけとどのような関係性にあるのかを探ることだった。研究方法として、過去に津波や水災害で被災した住民の避難勧告・指示に対する意識調査を行った先行研究や防災対策推進検討会ワーキンググループの資料等の文献を25集め、メタ分析を行った。先に挙げた要因を探るため、「避難勧告や指示を聞いたときにどう思ったか」「実際に避難したかしなかったか」「しなかった場合はなぜしなかったのか」という問いに対する回答をデータとして集めた。 データのまとめから次の点が浮かび上がってきた。1) 避難の呼びかけを聞き、避難行動を取った人は避難呼びかけへの信頼度が比較的高く、これから起こりうる危険を想定した人が多い。避難勧告・指示の意味を理解し、避難所の場所を知っている。近隣や消防団等からの直接的な呼びかけが避難を促す。また、避難行動を取るのは、女性の方が多い。2)避難の呼びかけを聞いても避難しなかった人は、被害の想定をせず、「自分は大丈夫だろう、川が決壊しても自分のいる場所は浸水しないだろう」等、正常化バイアスによる危険認知の妨げが多く見られる。特に70歳以上の人は避難しない率が顕著である。正常化バイアスに加えて、避難所まで行くのが大変という避難に対する心的負担も抑制要因になっている。また、災害情報の取得をテレビやラジオ等の間接的なメディアに頼る傾向も見られた。 これらのまとめをオーバーフローモデルに反映し、より詳細な避難の心理モデルを構築しているところである。また、本研究を紹介するホームページを作成した。http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~jginsbur/DisWarnIndex.html
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度計画の中心であるメタ分析は、概ね終了した。今後、さらに関連する文献を集め、メタ分析を継続することは可能である。現時点では、データのサマリーはできているが、これをどのような形で発表したらベストか思案している。学術論文か、サマリーをプロジェクトのホームページで公開するか、どちらかの形でなるべく早く公表したい。ホームページは、研究の概要、研究体制、論文等の他、これまで集めた避難呼びかけ文のデータも掲載している(自治体から掲載の承認を得たものを公開)。呼びかけ文の収集は、学生アシスタント等を雇って、今後も継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、メタ分析で明らかになった促進・抑制要因について言語的要素がどのように影響しているか調査を行う。呼びかけ文のわかりやすさは構文の複雑さの度合いに関係があり、促進または抑制要因になる。音声知覚実験を通して様々な構文の理解度を測り、適正な構文を探っていく。また、発話速度や声のピッチ、大きさ等の音響変数を操作し、聞き手が緊急性を感じるのに最適な音響パターンを見つける。一連の音声知覚実験では、暴風雨の音を呼びかけ音声に被せたり、理解度テストを測るタスクの前にスピードを要求するような全く別のタスクを被験者に与えて、焦った心理の下で呼びかけ文を聞いてどのくらい理解するかといったようなこれまでしてこなかった手法を取り入れて行っていきたい。 このような実験を行うために、心理学実験作成ソフトを導入し、より正確なデータが取得できるようにする。また、被験者を個別にテストするので、学生アシスタント等を雇って研究補助をしてもらう。30年度前半はこれらの実験環境を整えるため、備品購入やアシスタント募集を行う。実験結果は統計を用いて分析し、論文や学会発表の形で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度にパソコン3台の購入を予定していたが、購入したのは1台のみだった。研究プロジェクトのホームページを作成・管理するためのサーバーとしてのパソコン1台と実験・データ分析用の1台は、次年度以降に購入する予定。また、ウェブ調査費用も予算として計上していたが、先行研究のメタ分析を先に行ってからウェブ調査を考えることになったので、29年度はウェブ調査を行わなかった。 30年度は、音声知覚実験のための心理学実験作成ソフトと反応ボタンボックスの購入と実験参加者やリサーチアシスタントへの謝金に繰越金含めた今年度分配金を使用する予定。また、文献やパソコン購入、旅費等にも使用する。
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