研究課題/領域番号 |
17K02691
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
内堀 朝子 日本大学, 生産工学部, 教授 (70366566)
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研究分担者 |
小林 ゆきの 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 講師 (80736116)
上田 由紀子 山口大学, 人文学部, 教授 (90447194)
原 大介 豊田工業大学, 工学部, 教授 (00329822)
今西 祐介 関西学院大学, 総合政策学部, 講師 (80734011)
松岡 和美 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (30327671)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 手話言語学 / 日本手話 / 文末指さし / 指示特性 |
研究実績の概要 |
平成30年度は本研究プロジェクト3年間のうち2年目として,1年目に収集した文末指さしを含む日本手話文のデータを踏まえ,日本手話母語話者の協力のもとに更なるデータ収集を進めた。特に,研究体制として設定した二つの研究グループのうち,1年目に「話題要素担当グループ」によるデータ収集に重点を置いて調査を行ったが,その中に,「非項/陰在的項担当グループ」の研究課題に対して,一つの示唆があった。即ち,日本手話において文末指さしが,いわゆる受動態文中の陰在項を指示していると明確に判断する根拠を得ることが,現状では極めて難しいということである。理由の一つに,日本手話母語話者の中でも判断が分かれることが分かった点が挙げられる。そのような点を踏まえ,今年度の調査では,非項・陰在項に関するデータ収集を保留とすることとした。 そこで今年度は,もっぱら文頭に話題化非手指標識を伴う要素と,その要素を指示対象とする文末指さしの両方を含む文が,日本手話母語話者にとって自然であると判断される文を,広く収集した。また,文末指さしの持つ音韻特性から,音声言語の接語との類似性が指摘されることから,音声言語の関連先行研究も調べ,それらを参考としつつ,特に,そのような文が文法的かつ談話上適切であるような文脈として,文末指さしの指示対象の名詞句の話題性・定性・特定性等,指示素性に関して注目することとした。 したがって今年度の調査は,「研究の目的」で述べた,本研究プロジェクトの課題のひとつである「問題Ⅰ:話題要素を含む文における文末指さしは,何を指示対象とすることができるのか?」に対し,特に上記の名詞句の指示特性を細かく限定しつつ,回答を試みたものとなった。調査結果は,今後,学会等で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は本研究プロジェクト3年間のうち2年目として,二つの研究グループ「話題要素担当グループ」「非項/陰在的項担当グループ」がそれぞれ,文末指さしを含む日本手話文のデータ収集・調査を実施する予定であった。 前者のグループによる調査は1年目から予定通り行われており,2年目のデータ収集および考察・分析からは,一定の意義のある成果が得られている。一方,「非項/陰在的項担当グループ」による調査は,1年目でも研究分担者と研究協力者(日本手話母語話者)の方の都合により遅れることとなり,更に,その間1年目に「話題要素担当グループ」によって収集されたデータの一部に,「非項/陰在的項」に関連するデータが含まれており,かつそれに対して考察した結果,「非項/陰在的項に関する課題設定は見直すことがむしろ必要であることが分かった。 したがって今年度のデータ収集および考察・分析の結果として,当初に設定されたよりも適切な研究課題が得られることとなった。これにより最終年度に研究結果をまとめる方向性をより妥当なものに向けることができるため,研究全体としては大幅な遅れはないものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,平成29年度・平成30年度に実施した調査や得られたデータ等について,研究代表者と研究分担者とで検証しあい,その結果に基づき,最終年度である今年度に調査するデータを精選するなどして,考察・分析の方向性をより妥当なものとしていきたい。 現段階までに得られている研究成果によれば,本研究プロジェクトで設定された二つの研究課題「問題Ⅰ:話題要素を含む文における文末指さしは,何を指示対象とすることができるのか?」「問題Ⅱ:文末指さしが主語以外の話題要素を指す場合について,日本手話における受動文と考える独立の根拠はあるか?」のうち,問題Ⅰに焦点を当てることによって,これまで未解明だった文末指さしの分析を進めてきた。一方,問題Ⅰに関して調査を進めた結果,問題Ⅱはこの研究全体の中では扱えないものである可能性が高まった。これは,平成30年度に,問題Ⅰに集中して取り組むことにより,最終的に問題Ⅱに何らかの示唆が得られるのではないかと考えたとおりの結果であった。 したがって今年度も問題Ⅰに取り組み,研究グループの体制は柔軟に対応しつつ,調査の実施条件が整った研究代表者・分担者の間で,適宜,「(空の要素を含む)話題要素」と文末指さしの関係を中心にしつつ,データ収集および考察・分析を行い,文末指さしの指示対象に関する研究成果をまとめることとしたい
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者がそれぞれ予定していた,謝金の支払いを伴う調査の一部が,研究協力者(日本手話母語話者)の都合その他により設定できず,その分が繰り越された。さらに,予定していた研究分担者との打ち合わせの一部が,双方の日程上の都合その他により設定できず,その分が繰り越された。 また,研究分担者の1人については,やむを得ない諸事情により予算執行を伴う研究が遂行できず,分担金の全額が繰り越された。この研究分担者は,平成30年度までで分担から外れていただくようにお願いした。他の研究分担者のうち2名が予定していた,謝金の支払いを伴う調査の一部が,研究協力者(日本手話母語話者)の都合その他により設定できず,その分が繰り越された。 以上の繰越分は,今年度新たに追加させていただく研究分担者への分担金に充てるとともに,今年度改めて設定する調査・打ち合わせのために使用する計画である。
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