研究課題/領域番号 |
17K02709
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
塩谷 亨 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (10281867)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 言語学 / 対照研究 / ポリネシア諸語 / 語類 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、東京外国語大学図書館においてポリネシア諸語の辞書等の参考図書及びオーストロネシア諸語対照研究の文献の閲覧および関連個所の複写による文献収集を行った。また、仏領ポリネシア(タヒチ)において、La Maison de la Culture de Tahiti図書館での関連文献の閲覧と書誌情報の入手、KLIMA、Archipels等の専門書取扱書店においてタヒチ語による記録資料、キリスト教関連文献頒布書店等においてタヒチ語雑誌と子供向け読み物等、日本では入手困難な現地語文献資料の購入による言語データの収集によりデータの拡充を行った。 今年度のトピックは、ポリネシア諸語において、動詞句であるか名詞句であるかの区別が曖昧になっているような事例について、どのような場合に曖昧性が生じるのか、また、そのような曖昧性を扱うためにはどのような分析が有用であるのか、を明らかにすることであった。述語部分が名詞句であるのか動詞句であるのか、見ただけでは区別がつかず結果として名詞述語文なのか動詞述語文なのか曖昧になっているような事例として、ハワイ語の後接語iの用例をとりあげ、このような曖昧性が生じるのは、(1)後接語が一つしか付加されていない場合で、(2)その後接語が名詞後接語と動詞後接語の二つの機能を持っている場合であるという考察を、2019年9月の北海道言語研究会において発表した。また、ハワイ語の別の後接語heについても同様の分析が可能であることを示した上で、名詞句か動詞句かの統語的な区別そのものが不要とうことではなく、ある条件の下ではその区別が見えにくくなっているのだという分析を北海道言語文化研究第18号にて論文として発表した。更に、ハワイ語のheに対応するタヒチ語の後接語eについても同様の分析が有用であることを2020年3月の北海道言語研究会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この課題研究の目的として設定したポリネシア諸語の語類の同定に関わる三つの課題のうち、令和元年度には「名詞句なのか動詞句なのか曖昧性が見られるのはどのような場合なのか、また、そのような事例をどう分析すればよいのか」を考察することを計画していた。ハワイ語の二つの後接語iとheの事例を用いて、曖昧性が生じる条件となる二つの要因として、(1)後接語が一つしか付加されていないこと、(2)その後接語が名詞後接語と動詞後接語という二つの機能を持つこと、を示した。また、ハワイ語のheに対応するタヒチ語の後接語eについても同様に分析できることを示した。更に、いずれの場合でも、このような曖昧性は、過去に起こったと思われる後接語の機能の統合或いは拡張が原因として説明されるとの仮説も示された。いずれも研究会での口頭発表又は論文誌にて発表することができた。 このように、当初計画で提起された問題について一定の答えを得ることができたので、概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
過去3年間にわたり、ポリネシア諸語の語類の同定に関わる三つの疑問点、(1)ある同系の要素が小辞・自立語・接辞のうちどれに分類されるかポリネシア諸語間で一致しない場合があるが、どのような場合に不一致が起こるのか、(2)ある動詞が別の動詞に付加されて副詞的な意味を表している場合、その副詞要素はその動詞の副詞的用法と分析するべきか或いはその動詞から派生した副詞的小辞の用法と分析するべきか、(3)名詞句なのか動詞句なのか曖昧性が見られるのはどのような場合であり、それをどのように分析すべきか、について考察してきた。 最終年度である令和2年度にはこれまでに取り組んできた三つの疑問点についての考察結果を踏まえた上で、ポリネシア諸語の語類の分類基準の再構築をすると共に、語類を設定する上での分類原理を提示することを目指し、その成果を公刊する。 尚、研究調書においては、令和2年度にはこれまで収集できなかった資料を補うための国内出張及び外国出張を計画しているが、新型コロナウイルス感染の影響で、国内も海外(米国ハワイ、仏領ポリネシア)もいつ頃どこに資料収集に行くことが可能なのか目途が立っていない。安全な海外渡航及び分析資料の充足状況を考慮して、資料収集地については引き続き検討する。
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