コロナ禍による渡航制限及び国内外の図書館等の利用制限が解消する見込みが立たないため、止むを得ず当初の研究計画を一部変更し、資料収取のための出張計画を全て取りやめて、現在入手済みの資料のみに研究分析範囲を限定し、それらを大型高速スキャンシステムの導入も活用し、効率的にフル活用した上での可能な限りの分析を進めて本研究のまとめに着手することとした。 これまでに取り組んできた三つの問題点、小辞・自立語・接辞の区別、自立語の修飾語用法と修飾語的に機能する小辞の区分、名詞句と動詞句の区分及び数詞の位置づけ、の分析研究の成果を踏まえて、ポリネシア諸語の語類の分類基準と原理についての考察を進めた。その際、小辞の中でも、特に自立語に前置される小辞が動詞句と名詞句という機能的区分に直接反映することに着目し、(1)前置される複数の小辞の機能の形式的融合、(2)前置される小辞の一部にみられる機能的曖昧性という二つの視点により、より効果的な語類の分類基準と原理が導かれるという結論に達した。多くのポリネシア諸語に共通の特徴としては、自立語に付加される小辞の辞順が固定されているということがあるが、(1)の視点を用いて、一部の前置される小辞については隣接する小辞の機能が一つの形式に融合されたという歴史的過程を想定することにより、一見複雑な小辞の振る舞いが組織的に説明される。(2)の視点は、自立語に前置される小辞の多くについては、動詞句または名詞句の片方の機能とのみ結びついているが、その区分が曖昧な小辞が一部存在しており、それらの小辞の機能的曖昧性を想定することにより、動詞句と名詞句の区分の曖昧性を説明するものである。これまでの研究成果をまとめた研究最終報告書を近く公刊する予定である。
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