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2018 年度 実施状況報告書

ドイツ語の未来形の歴史的発達についての研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K02710
研究機関東北大学

研究代表者

嶋崎 啓  東北大学, 文学研究科, 教授 (60400206)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードドイツ語史 / 歴史言語学 / 文法化
研究実績の概要

ドイツ語の未来形は<werdenの直説法現在>+不定詞によって形成されるが、歴史的には<werdenの直説法過去>+不定詞という、現代ドイツ語では見られない特殊形態が未来形に先行して発達する。当該年度の研究においては、この二つの形式の間で、<werdenの接続法2式>+不定詞が発達したことが明らかになった。すなわち、1400年頃に<werdenの直説法過去>+不定詞が発達し、15世紀後半に<werdenの接続法2式>+不定詞が発達、16世紀前半に未来形の<werdenの直説法現在>+不定詞が発達するという順番で各形式が発達する。
ここで問われるのは、<werdenの接続法2式>+不定詞の発達が未来形の発達に対していかなる意義を持つのかということであるが、先行して発達する<werdenの直説法過去>+不定詞は、中高ドイツ語においてよく用いられた<beginnenの直説法過去>+不定詞を雛形としており、意味的に制限されていた。すなわち、「言った」のような発言を表す場合、「見た」のようは認識を表す場合、「泣いた」のように理性では制御できない動作や感情を表す場合の三つの場合に用いられることがほとんどであり、beginnen「始める」の意味から通常想定される、例えば「食べ始めた」、「働き始めた」、「暮らし始めた」のような表現は見出されない。それに対し、<werdenの接続法2式>+不定詞においてはそのような意味的制限が見られず、さまざまな動詞の不定詞から作られ、このことが、<werdenの直説法過去>+不定詞から未来形の発達へと移る際の橋渡しの役割を果たした。その際、接続法2式が直説法過去と意味的にも形態的にも連続していることが有効に作用したことが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまでの研究においては、未来形の<werdenの直説法現在>+不定詞が発達する前に<werdenの直説法過去>+不定詞が発達し、後者が前者の発達に影響を与えたことは想定されていたが、その影響がどのようなものであったかは不明であった。当該年度の研究においては、その両形式の中間段階として<werdenの接続法2式>+不定詞の発達があったことが資料の調査により明らかになった。その際、<werdenの直説法過去>+不定詞には認められた意味的制限が<werdenの接続法2式>+不定詞においては解除されたということが重要である。すなわち、<werdenの直説法>+不定詞が「未来形」という時制になるためには基本的に不定詞の動詞の意味が制限されてはならない。<werdenの直説法過去>+不定詞は叙事的語りの地の文において、人間の行為であってもそれがあたかも自然現象のように生じたという自発的意味を表すのに用いられた。それに対し、<werdenの接続法2式>+不定詞は非現実の仮定の事態を表すのに用いられるので、特に自発的意味を表す必要はない。<werdenの接続法2式>+不定詞があらゆる種類の非現実の仮定の事態を表すということになると、<werdenの直説法現在>+不定詞があらゆる種類の「未来」の事態を表すのは自然な流れと言える。従来の研究ではwerden+不定詞がもともと開始を表すという説明にとどまっていたが、当該年度の研究により、werden+不定詞の発達の中に、werdenの直説法過去、接続法2式、直説法現在のそれぞれの発達段階が異なり、またそれぞれの間の意味的な連関が示されたことには大きな意味があると考える。

今後の研究の推進方策

ドイツ語の未来形の発達においてこれまで謎とされているのは、未来の事態を表す用法と現在の事態についての推量を表す用法の二つがどのような連関で生じたかであった。これまでの研究により、話法的意味が先行しそのあとで時制的意味が発達したというLeiss (1992) の仮説は正しくないということは明らかであるが、現在の推量の意味がどのようにして生じたかは不明なままであった。当該年度の研究では、<werdenの接続法2式>+不定詞の発達が未来時制の発達に大きく寄与したことが明らかになったが、<werdenの接続法2式>+不定詞が動詞の種類を選ばず、初期の段階ですでに動詞seinの不定詞をとることがあり、その意味が未来形における現在の事態の推量の意味に近似するということに鑑みると、時制的意味と話法的意味のどちらが先という問いの立て方が間違っている可能性が出てきた。新たな可能性として、時制的意味も話法的意味もどちらも<werdenの接続法2式>+不定詞との連動で、いわば同時に発達したということが考えられる。そこで今後は、この新たな可能性を、特に1500年頃の資料にもとづいて検証し、未来形の話法的意味の出現経緯を跡づけたい。そしてまた、未来形の発達が<werdenの直説法過去>+不定詞の衰退と連動していることについても、不定詞の動詞の意味的制限の観点から検証したい。

次年度使用額が生じた理由

購入を予定した書籍で当該年度に入手できないものがあったため。次年度には購入できると思われる。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] ドイツ語未来形の歴史的発達におけるwuerde +不定詞の位置づけ2019

    • 著者名/発表者名
      嶋﨑啓
    • 雑誌名

      文化

      巻: 82-3/4 ページ: 印刷注

  • [学会発表] ドイツ語の自由間接話法の英訳と仏訳2018

    • 著者名/発表者名
      嶋﨑啓
    • 学会等名
      シンポジウム「語りと主観性―自由間接話法とその他―」

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公開日: 2019-12-27  

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