本研究の目的は、複数の言語使用場面における日本語と韓国語によるメタ・コミュニケーションを、マルチモーダルな視点から分析し、その様相を明らかにすることである。 2022年度は、対象とする現象が韓国語内、あるいは、日本語使用上の問題なのかを見極めることに注力した。過年度の知見より、メタ・コミュニケーションに関わる談話マーカー(「で」)の使用において、予想とは異なる韓国人日本語学習者の傾向が窺われた。これが、何に根差した問題なのかを明らかにすべく、同一人物(学習者)が同一内容の口頭発表を、韓国語と日本語で行う映像データ(3名分)を収集し、基礎的な文字起こし作業、および、翻訳作業を行った。このデータに基づき成果発表を行う見通しが立っている。 研究期間全体を通じて得られた成果は、以下にまとめられる。日韓において収集した、同一人物による3つの言語使用場面における自然発話(口頭発表、スピーチ、雑談会話)、および、これらとは性質を異にする商業場面における自然発話(顧客会話)により、メタ・コミュニケーションの一つである「挿入構造」における日韓の差異を明らかにした。さらに、日本語の「挿入構造」における言語的手段の一つである「助詞開始発話」について、上記の韓国語データでは認めらないこと、しかし、一般のメディアデータ(テレビ番組の字幕)では認められるという、日韓のメタ・コミュニケーションにおける可能な言語的手段の範囲、その異同を明らかにした。 加えて、上記の研究活動から派生的に得られた研究成果としては、韓国国内での日本語教育におけるメタ・コミュニケーションの扱いを把握できた点である。高等学校教育課程日本語教科書14冊においてメタ・コミュニケーションは扱われていないことがわかった。また、検討の過程で抽出された提示日本語の容認性に関する問題を分析し、学会口頭発表、および論文にまとめた。
|