最終年度となる2021年度も新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた現地調査がかなわなかった。そのため、前年度に構築したデータベースの拡充を図るとともに、データベースを利用して分析をおこなった。 以下の成果を論文・口頭発表等で公表した:1) ブリヤート語分詞と定動詞の文末での中和、2) ブリヤート語テキスト(言語資料)の一部の公刊、3) 文献記録に残るブリヤート語の方言の同定、など。 1) については構築したデータベースを用いた成果である。ブリヤート語では非定形動詞であり、名詞的な特徴をもつ分詞がひんぱんに主節述語として用いられる。これは分詞が定動詞化していると考えることができる。その一方で本来名詞的な特徴を伴わない定形動詞が、否定接尾辞-guiを伴ったり、分詞が取りうる接語を伴ったりする用例が観察される。これは、分詞の定動詞化ののちに、定動詞が分詞のもつ一部の形態的特徴を獲得し、主節述語(=文末。ブリヤート語は主要部後置型、SOV型であるため主節述語は文末に位置する)においては両形式が中和しているということになることを提案した。2) は過去に収集した言語データの公刊であり、3) は文献(榎本武揚『シベリア日記』)に記録されているカナ書きのモンゴル系言語のメモについて、記録者である榎本の行動履歴と表記の特徴から、ブリヤート語ホリ方言を基層としていることを主張したものである。 とくに1) の成果は本研究課題の主目的であるfinitenessに直接関連するもので、現地調査がかなわない状況下ではあったが一定程度の成果を残すことができたといえる。一方で、本研究課題を通じて「文」という発話単位の定義の困難さ、不明瞭さが改めて明らかとなった。この点に関しては、周辺研究者と協力し、言語記述において「文」を規定することが果たして可能なのかどうかという点に関して今後研究を深めたい。
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