研究課題/領域番号 |
17K02720
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
張 盛開 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (00631821)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 言語学 / 危機言語 / 移民言語 / 現地調査 / 語彙比較 / 客家語 / 漢語方言 / 口語コーパス |
研究実績の概要 |
平成30年度は現地調査を2回行った。8月塘坊にて語りを二日間採集し、同じく平江県内の小岩村にて語りを一日採集した。9月江西省Gan州市にて客家語の語彙を1200、語りを1時間ほど採集した。本年度中、平江天林客家語、平江連雲客家語、台湾台中客家語、梅州客家語のそれぞれ語彙1200項目の録音を発音記号に転写した。塘坊で録音した語りの文字転写に専念し、口語コーパスを増やした。これらの口語コーパスを活かし、塘坊客家語の文法や語彙の記述を進めている。大きな成果は主に下記の二つである。平成30年5月、「塘坊客家語における「子」について)、国際中国言語学会第26回大会. Wisconsin University-Madison(アメリカ)にて報告した。これは口語資料にみられる「子」を分析したものである。分析結果から塘坊客家語における「子」の複雑な用法は塘坊客家語と地元平江方言の融合した結果であることが判明した。それから、論文「客家語語彙の比較―平江客家語を中心とする」を作成し、第13回客家語国際学会にて報告した。その内容は、平江塘坊客家語、連雲客家語、台湾台中客家語、平江城関方言の四つの方言における基礎語彙1200の比較である。語彙の比較を通して、平江県内部における客家語は互いの交流が少ないにもかかわらず語彙における統一度が高いことが判明した。地元平江及び客家語梅州方言とも比較した結果、これらの客家語が移民してから地元平江方言と絶えずに接触交流した結果、多くの平江方言語彙を取りこんでいるが、客家語の語彙と特徴を多く保持していることが判明した。基礎語彙で比較対照を行った結果、塘坊客家語と連雲客家語の語彙は平江方言と客家語が混ざった語彙体系になっていることが言える。フィールドワークでは小岩村や大岩村の客家語を少し調査することができたが、どこも話者が減りつつ状態であることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度はできるだけ多くの資料を収集し、一次分析をしつつ整理と質を高める工夫をした。また収集と分析整理の段階に応じて学会などで報告した。発表の場としては、世界各国から中国の言語の研究者が集まる国際中国言語学会(IACL)が適切であり、IACL26に採択され、平成30年5月に研究報告を行った。主に実地調査を行い、他言語や方言の分析法に倣い、調査結果を精密に分析し、仮説を立てて、再調査で裏付けた。塘坊客家語に重要な影響を与えたと推定される梅県客家語や台湾の客家語も調査した。30年度は1地点(Ganzhou)の客家語データ(語彙1200)を採集した。手元の資料に加え、全部で8地点の客家語基礎語彙1200の調査データを持っていることになる。これらの語彙データの比較対照により、各地の客家語の語彙変遷がわかり、語彙に関する移民言語の展開・変容のダイナミズムの解明に役に立つ。録音資料を文字化し、口語コーパスを作成し、文法や音韻特徴を調べる予定であった。これに関しては、現地調査では語彙データを採集すると同時に物語や地元の案内、家族史などについての語りのデータも採集している。これらの語りは極めて自然な状態の下で採集したものであり、より自然な音声や文法現象を調べることができる。現に、塘坊では語りから文字化したデータが25,000字あり、試験的な分析だけでもすでに多くの発見がある。その詳細な内容は今後少しずつ学会などにて報告していく予定である。30年度は二回国際会議にて報告を行った。この通り、計画が順調に進展し、成果を出していると言える。文法の記述を進め、録音資料の文字化を進めている。口語コーパスのデータを増やし、文法の研究に活かしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き手元のデータを整理しずつ追加調査をしていく予定。未整理データとして、基礎語彙では、湖南省資興黄草方言とGanzhou客家語がそれぞれ1200あり、語りデータとしては、湖南省資興黄草方言と塘坊方言それぞれ長時間の録音やビデオを採集できている。これらのデータの整理、特に文字転写に関しては地元の話者の協力を仰ぎ、集中的にできるように、話者を日本に招聘することも視野に入れる。音声データの文字転写を進め、口語コーパスのデータを増やし、文法研究を進める。令和元年度は音声データ、文字データ、映像データの統合や分析を行う。塘坊客家語の全体データに対する分析結果を国内外の学会にて発表し、その内容を論文にまとめる。データの整理に関してはソフトウェアEmEditior、Toolbox、Elanを活用する。データの分析にはツールAntconcを用いる。方言に対する分析については、他言語や方言の分析法に倣い、調査結果を精密に分析し、仮説を立てて、再調査で裏付ける。情報の公開に関しては、収集したすべての音声、映像、文字データをまとめて出版、音声や画像データはネット上で公開利用できるように段取りを組む。手元の客家語資料は、湖南省、広東省、江西省、台湾より収集しており、きちんと整理して一般の方でも利用できるように公開する。方言資料について綿密な分析を行い、論文にまとめて学会誌に投稿するなどして、研究成果の公開や発信、更にはその他の少数言語の研究や資料の保存、社会への還元に努める。地元に関しては代表者はコンサルタントから提供された資料を整理し、研究成果を地元へ還元する。観光地化されつつある地元で、方言関連の観光客向けイベントの開催や資料の展示を行い、地元の潜在的な話者の開発に努める。最終的には三者(地元、話者、代表者)とも利がある形の流れを実現できれば研究成果の社会的貢献につながると考える。
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