研究課題/領域番号 |
17K02720
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
張 盛開 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (00631821)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 移民言語 / 方言 / 比較対照 / 類型的研究 / 言語接触 |
研究実績の概要 |
4月~8月、自作のコーパスから用例を収集し、主にアスペクトを表す助詞「li」(塘坊客家語)と「ta」(平江方言)についての比較対照を通して、その用法を明らかにし、第14回漢語方言研究会にて報告した。両者の主な用法は、アスペクト助詞として、完了、持続、変化、結果などのアスペクトに用いるが、それ以外の用法もいくつか見られた。両者とも不合理状態(形容詞の後)、量の限定(量詞の後)、目的地(場所詞の後)などに使用されることで共通している。「li」(塘坊客家語)は「可能」に使用されるが、「ta」(平江方言)は「命令」に用いられるところで相違を見せている。 9月~12月、塘坊客家語をはじめとする湖南省乃至全国の方言における童謡を対象に、その言語と地域的特徴を究明し、「童謡の言語と地域的特徴」というテーマで論文を作成し、学会の論文集に投稿した。これは令和元年に行った研究の結果及び学会発表に基づいて研究を進めて加筆修正して論文にまとめたものである。童謡の文化的特徴として、素材、概念、形式などにおける類似性がみられ、教育的な役割を担うものが多いことが言える。童謡の言語特徴には押韻、押音(韻脚に同じ音節を用いる)、同音による文字交替、語彙によるしりとり、問い詰め、重複が見られる。地域的特徴としては、各地の童謡にはその地域の言語と特徴を反映していることが言える。 1月~2月、平江方言の尊称接尾辞「lao」から出発し、塘坊客家語を含む平江全域での使い方を明らかにしたものである。湖南省、江西省の方言を中心に全国の方言にわたる「lao」の使い方をSNSやアンケートで調査を行い、「lao」の由来も究明した。さらに同じく尊称接尾辞を持つ日本語と現代韓国語との比較対照も行い、それぞれの用法や使用範疇を明らかにした。これらの研究結果をまとめ、3月に第15回漢語方言研究会にて報告を行い、同月、論文を出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度はできるだけ多くの資料を収集し、一次分析をしつつ整理と質を高める工夫をした。また収集と分析整理の段階に応じて学会などで報告した。 平成30年5月に国際中国言語学会にて研究報告を行った。主に実地調査を行い、他言語や方言の分析法に倣い、調査結果を精密に分析し、仮説を立てて、再調査で裏付けた。塘坊客家語に重要な影響を与えたと推定される梅県客家語や台湾の客家語も調査した。30年度は1地点(Ganzhou)の客家語データを採集した。採取した各地(計8地点)の客家語基礎語彙のデータの比較対照により、各地の客家語の語彙変遷がわかり、語彙に関する移民言語の展開・変容のダイナミズムの解明に役に立つ。 平成31年度/令和元年は童謡を中心に研究した成果を国際会議にて報告を行った。更に口語調査の経験を生かし、塘坊客家語のデータに基づき、口語調査の方法、データの整理及び分析についての講演を行った。 令和2年は手元の資料を中心に、整理と分析を進めた。研究が進んだ段階で、SNSでの筆談、電話調査やオンラインによるアンケート調査も利用した。更に移民言語と地元言語のアスペクト助詞、尊称接尾辞の用法を明らかにし、移民言語、地元言語ないし全国の言語における童謡について研究を行った。コロナウィルスで国際学会が中止となり、その後、これらの研究成果をまとめ、国内の漢語方言研究会にて2回報告を行った。 これまで現地調査で採録した録音資料を文字化し、口語コーパスを作成し、文法や音韻特徴を調査し続けている。現地調査では語彙データを採集すると同時に物語や地元の案内、家族史などについての語りのデータも採集している。現に、塘坊では語りから文字化したデータが約3万字あり、そこから多くの発見があり、学会報告などをし、論文にまとめて出版している。フィールドワークを行う必要があるが、まだ実施していないため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き手元のデータを整理し、研究発表や論文作成をしていく予定。未整理データとして、基礎語彙では、湖南省資興黄草方言と江西省Ganzhou客家語がそれぞれ1200 あり、語りのデータとしては、湖南省資興黄草方言、平江県塘坊方言、江西省Ganzhou客家語の長時間の録音や録画ビデオを採集できている。これらのデータの整理、特に文字転写に関しては地元の話者の協力を仰ぎ、集中的にできるように、話者を日本に招聘することも視野に入れる。音声データの文字転写を進め、口語コーパスのデータを増やし、文法研究を進める。令和3年度は音声データ、文字データ、映像データの統合や分析を行う予定である。塘坊客家語の全体データに対する分析結果を国内外の学会にて発表し、その内容を論文にまとめる。データの整理に関してはソフトウェア:EmEditior、Toolbox、Elanを活用する。データの分析にはツールAntconcを用いる。情報の公開に関しては、収集したすべての音声、映像、文字データをまとめた出版、音声や画像データはネット上で公開利用できるような段取りを組む。手元の客家語資料は、湖南省、広東省、江西省、台湾より収集しており、きちんと整理して一般の方でも利用できるように公開する。方言資料について綿密な分析を行い、論文にまとめて学会誌に投稿するなどして、研究成果の公開や発信、更にはその他の少数言語の研究や資料の保存、社会への還元に努める。代表者はコンサルタントから提供された資料を整理し、研究成果を地元へ還元することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由は海外調査ができるようにフィールドワークのための経費をプールしておいたためである。 今年度はコロナウィルスでフィールドワークが実施できなかったため、主に手元にあるデータの整理と分析をメインに研究を進めてきた。その成果として学会発表を2回実施し、論文を2篇作成できた。コンサルタントとの交流もSNSなどで行ったが、研究を進めていくうえで、実際に面と向かって話し合い、データについて細かいところまで確認する必要性があることを感じている。それを実行するには、現地に行ってフィールドワークを行う必要がある。ゆえに、研究期間を延長し、分析を進め、更にフィールドワークにて確認し、論文の作成と投稿をして行きたいと考えている。 使用計画としては、今まで収集したデータの再確認を行うため、夏休みにフィールドワークにいくので、そのための渡航費と現地での滞在費用として使用する予定である。
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備考 |
漢語使者の研究室/研究/フィールドノート/
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