研究課題/領域番号 |
17K02722
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
勝川 裕子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (40377768)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 中国語 / 教育文法 / 横断的分析 / 可能表現 / 中間言語 |
研究実績の概要 |
我が国における中国語教育では、これまで中国語学研究の成果を反映させた教育文法、文法インストラクションを採用してきており、個々の文法知識の記述及びその体系化については一定の蓄積があるものの、学習者の内部で起こる言語処理や学習者の発達過程を視野に入れた考察、即ち第二言語習得研究の成果を反映させた研究はあまりなされてこなかった。 このような状況に鑑み、本研究では学習者調査を通じて彼らが産出する中間言語形式とその発達過程を質的・量的側面から実証的に記述していく。そしてその上で、文法項目の導入範囲と各項目の相関関係を中国語学的見地から横断的に分析し、導入順序の基準構築を図ることにより、目標言語の言語事実と学習者の習得発達過程を反映した、より実用的な教育文法を設計することを最終的な目的としている。 本研究課題の目的を実現するための足掛かりとして、本年度は「可能表現」を取り上げた。中国語の可能表現は複雑に分化しており、複数の文法形式が一つの表現カテゴリーに属しているという特徴を持つことから、いずれの表現形式を選択するかという点において誤用が起こりやすい。そこでまず、可能表現の習得状況を把握するために、報告者(勝川)が在籍する大学の2年次クラス(中級中国語)において筆記調査を行った(可能の助動詞及び可能補語は共に既習項目)。彼らが産出した中間言語に対して構文分析を行った結果、予測通り可能補語形式の習得が著しく低く、使用の回避及び助動詞の過度な適用が観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では報告者(勝川)の専門分野である中国語学に加え、第二言語習得研究および中国語教育を研究領域とし、学習者調査を通じて彼らが産出する中間言語形式とその発達過程を質的・量的側面から実証的に記述していくことから、まずは、報告者自身の第二言語習得研究に関する知識の底上げ、及び綿密な調査項目設計とその妥当性の検証が必要である。 本研究課題で採用する質的・経時的調査は、各発達段階における中間言語の変容を捉えるために必要な調査であり、第二言語の発達過程における文法処理能力を明らかにする上で不可欠である。また、これに先立ち、習得状況の全体像を把握するために量的な学習者調査が必要であるため、段階を追って課題を進めていかなくてはならならい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度行った分析結果に基づき、1年次クラス(初級中国語)2クラス分を調査対象とし、1クラスはこれまでの文法シラバス通りの導入をし、もう1クラスは勝川2015の導入試案に基づく形で導入する中、年間を通じて複数回調査を行い、経時観察及び比較対照を行う予定である。 また、これと同時に“把”構文と各種補語の横断的文法研究を行う。“把”構文は構文的役割としては単純なものの、その運用には中国語において多用される各種補語(結果補語、方向補語、可能補語)やアスペクト等、横断的視点が必須であり、学習者にとって“把”構文はいつ使ったらよいのか把握しづらい構文である。中国語学研究ではこれまで研究対象となる言語事象内部の統語的・意味的分析に重点が置かれてきたが、本研究では複数の文法項目との共起関係や意味的繋がりなど横断的文法研究を行うことで、文法項目の導入範囲と導入順序を精査していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた中国(北京に1週間ほど滞在)での資料収集、中国人研究者との意見交換が本務校の学務及び報告者の健康上の理由により実現できなかったため。本年度行えなかった実地調査は、次年度夏にスケジュールを調整の上、実施する予定である。
|