研究課題/領域番号 |
17K02725
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸田 文隆 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (30251870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 対馬宗家文書 / ハングル文書 / 小田幾五郎 / 虎説 / 漂民対話 / 復文録 / 中村庄次郎 / 朝鮮語学書 |
研究実績の概要 |
本研究においては、江戸中期から明治初期にかけて分布している日朝往復ハングル書簡類を網羅的に収集し、翻刻・和訳・文献言語学的考察を付したデータベースを構築する。日朝往復ハングル書簡類は、従来公開がなされていなかったため、また、各地に断片的に伝わっていたため等の理由により、その全貌を把握することが困難であったが、近年の資料公開の機運に乗じ、網羅的な調査・分析を企図するものである。このデータベースは、朝鮮語史のみならず、日朝関係史などの研究にも有用な情報を提供するものと考えられる。 今年度は、江戸後期の著名な朝鮮語通詞であった小田幾五郎の編になる「虎説」の翻刻・和訳・文献学的考察をおこなった。当該資料は、現在小田幾五郎の子孫である大浦家の鍵屋歴史館に所蔵されているが、小田幾五郎自身が文化7年(1810)初夏に釜山の草梁倭館において編纂・執筆した自筆原本であり、極めて価値が高いものである。本書は、小田幾五郎が積年の朝鮮語通詞の勤めのかたわら聞き取った朝鮮の虎に関する話を集めたもので、朝鮮八道と虎の分布、虎は公用の飛脚を害さず、虎は子を産んだ谷の近辺で人を害せず、等々の話が全35条にわたって収められている。本書が、日本の朝鮮語学史上極めて重要な資料であるのは、従来明らかになっていなかった朝鮮語学書類の例文の来源を、本書に求めることができるからである。たとえば、薩摩苗代川の朝鮮語学書である「漂民対話」や明治期の朝鮮語通訳官中村庄次郎が釜山草梁の語学所において朝鮮語を勉強したときの学習帳である「復文録」にあらわれる例文の来源を本書に見出すことができる。この事実から、本書が江戸後期以降の朝鮮語通詞たちによく読まれていたこと、本書が日本の朝鮮語学書に及ぼした影響の大きさを知ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により韓国国史編纂委員会所蔵の対馬宗家文書などの調査出張を実施できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの感染がおさまり、調査出張が可能になれば、精力的に資料調査をおこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により計画していた韓国への調査出張を実施できなかったため。次年度にコロナの感染がおさまり、韓国への調査出張が可能になれば、精力的に資料調査をおこないたい。また、対馬の宗家文書についても、この間対馬博物館の設立・開館準備のため閲覧調査ができなかったが、次年度にようやく開館されるので、次年度には資料調査を実施する計画である。
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