本研究においては、江戸中期から明治初期にかけて分布している日朝往復ハングル書簡類を網羅的に収集し、翻刻・和訳・文献言語学的考察を付したデータベースを構築することを企図した。日朝往復ハングル書簡類は、従来公開がなされていなかったため、また、各地に断片的に伝わっていたため等の理由により、その全貌を把握することが困難であったが、近年の資料公開の機運に乗じ、網羅的な調査・分析を企図するものである。このデータベースは、朝鮮語史のみならず、日朝関係史などの研究にも有用な情報を提供するものと考えられる。 昨年度までに、長崎県対馬歴史研究センター、対馬鍵屋歴史館、富山市立図書館、韓国国史編纂委員会などに所蔵される、対馬宗家文庫ハングル書簡類、「書状集」、「片紙集」などの日朝往復ハングル文書や、「朝鮮口聞書」、「虎説」などの朝鮮関連書籍を収集し、データベースを作成するとともに、解題・翻刻を付して公刊した。今年度(最終年度)には、対馬鍵屋歴史館に所蔵されている対馬藩朝鮮語大通詞小田幾五郎の修正にかかる朝鮮語学書「交隣須知」について文献学的検討をおこない、これがいわゆる増補本系諸本の祖本であることを明らかにした。従来交隣須知の増補本の起源については、東京大学史料編纂所に所蔵される小田幾五郎修正本の残欠本(旧南葵文庫本)によって研究され、それを増補本の祖本と見るや否やについて論争があったが、本書鍵屋本は旧南葵本よりも前に成ったもので、かかる論争に終止符を打つ画期的な新資料である。その考察結果は、対馬鍵屋歴史館から出版された該書の影印本の解題において述べた。
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