研究課題/領域番号 |
17K02729
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
朱 春躍 神戸大学, 大学教育推進機構, 教授 (80362755)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 北京語のr化音 / MRI動画撮像 / 「舌を反らないr音」話者の発見 / r音の差異の世代差 |
研究実績の概要 |
中国語北京方言の「r化音」には,「母音一体化型r化音」と「重母音型r化音」の2種類あると指摘されて久しいが,これら2種類の発音は調音的・音響的にどんな特徴があるのかは,これまで実験音声学の見地から論ずる先行研究は管見の限り見当たらない。そこで,本研究では,MRI動画撮像の手法を用いて上記2種類のr化音の調音的特徴と音響面とのつながりを究明し,同時に,実地調査を通して,言語的背景の異なる「老北京人」と「新北京人」,さらにその子女である若年層の調音上の相違と発音の「単純化」または「複雑化の傾向を明らかにするのを目的としている。 平成30年度の研究実績は以下のとおりである。 1.MRI動画撮像 ①MRI動画撮像実験を行うための倫理審査(神戸大学国際文化学研究科)と安全審査(ATR-Promotions)を受け,承認された(年度ごとに申請が必要)。②若年層の北京方言話者1名のMRI動画データを分析した結果,幸運にもこの話者は「舌を反らないr音」の調音方法をする珍しい中国語話者だと判明した。このような調音方法の存在はこれまで報告されていない。③前述の②と比較するため,普通に「舌を反る」調音方法で発音する(こちらのほうが多数派)発話者を1名追加した。④上記②で収録したMRI動画データの分析を完成した。 2.北京方言発音の実地調査 ⑤北京方言調査のための発話テキスト(100センテンス)を部分的に修正し,⑥熟年層/若年層の「新北京人」14世帯・計28名の音声を収録した。⑦H29年度収録したデータの一部(37名分)を新たに分析した。 3.成果発表・学術交流 ⑧現段階のデータ分析結果に基づき,発表原稿・PPTを作成し,⑨H31年3月7日に中国北京師範大学文学院で研究発表・学術交流を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.H29年度は,①MRI動画撮像実験を行うための倫理審査(神戸大学国際文化学研究科)と安全審査(ATR-Promotions)を受け,承認された。②「r化音/非r化音」の最小対立ペア(例えば「歌ge/歌児ger,魚yu/魚児yur」など)を発話テキストに選定し,③熟年層・若年層の北京方言話者各1名のMRI動画・同音声を収録した。④上記③以外のMRI動画撮像実験の被験者(発話者)の選定を行った。⑤上記③で収録したデータの分析に着手した。⑥北京方言調査のための発話テキスト(100センテンス)を作成し,⑦熟年層/若年層の「老北京人」26世帯・計58名の音声と「新北京人」5世帯・計10名の音声を録音した。⑧上記⑦のデータの一部(10名分)を分析した。 2.H30年度は,MRI動画撮像の分析と,新たに1話者の撮像を行った。北京方言のr化音の調音は教科書通りの「反り舌音」と言われており,これまで私が周りの中国語話者に対する観察の結果から,そのことを疑わなかった。ところが,昨年度収録した若年層の北京方言話者1名のMRI動画データを分析した結果,この話者は「舌を反らないr音」の調音方法をしていることが判明した。このような調音方法の存在はこれまで中国語研究において報告されていないことから,大変価値の高いデータであると言える。 2.北京方言発音の実地調査はH30年度も引き続き行われた。熟年層/若年層の「新北京人」14世帯・計28名の音声を収録した。また,データ分析のほうも,昨年度の10名分の分析を完成したのに加え,H30年度は新たに37名分の分析を完成した。 3.成果発表 H31年3月7日に中国北京師範大学文学院で研究発表をした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,引き続きMRIデータの収録と分析を行う予定。異なる調音方法の話者の発見に伴い,MRIデータ収録の人数を増やし,比較研究を行う。 音声データ・MRIデータもかなりの程度集まり,その分析も進んでいるので,次年度は研究成果の学会発表に注力したい。すでに近畿音声研究会での発表を4月にしているが,5月のIACL(国際中国語言語学学会)と11月に上海で行われる「進化言語学(Evolutionary linguistics)」の国際学会で発表する予定。
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