研究課題/領域番号 |
17K02730
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福田 哲之 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (10208960)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 『蒼頡篇』 / 北京大学蔵西漢竹書 / 綴連 / 水泉子漢簡 / 蒼頡伝 / 『漢書』芸文志 |
研究実績の概要 |
本年度は、4年の研究期間の3年目にあたる。本年度の研究実績は、大きく二つにまとめることができる。 第一は、北京大学蔵漢簡『蒼頡篇』(以下、北大本)を中心とする研究実績である。9月2日に吉林大学古籍研究所で開催された学術講座“日本学者視野中的出土簡牘”において、「北京大学蔵漢簡《蒼頡篇》的綴聯復原」と題する講演を行なった。これは、昨年度発表した邦文論文にその後の研究を踏まえて修訂を加え、中国語に翻訳(白雨田訳)したものである。さらにこの中文論文は、復旦大学出土文献与古文字研究中心編『出土文献与古文字研究』第8輯(2019年11月)に掲載された。本論文は、北京大学出土文献研究所編(朱鳳瀚編撰)『北京大学蔵西漢竹書[壹]』が提示した北大本の竹簡の綴連(排列)の一部について、修正案を提起するとともに、竹簡の劃痕と竹節との関係を踏まえた検証の必要性を指摘したものであり、研究成果を広く海外に発信できたことは、今後の研究においてきわめて有意義であった。 第二は、水泉子漢簡七言本『蒼頡篇』(以下、水泉子本)を中心とする研究実績である。昨年度行なった二件の口頭発表とその後の研究を踏まえて、論文「水泉子漢簡七言本『蒼頡篇』再考―七言本成立の背景」にまとめ、『中国研究集刊』第65号(2019年6月)に発表した。本論文は、北大本との比較分析を通して、水泉子本の復原とテキストの性格について検討を加えたものである。さらに本論文で提起した水泉子本を『漢書』芸文志所載の『蒼頡伝』に比定する仮説の妥当性を、目録学の観点から検証するために、論文「『漢書』芸文志所載『蒼頡篇』考」をまとめ、『国語教育論叢』第27号(2020年2月)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までの研究実績を踏まえ、北大本に関する研究成果を、吉林大学古籍研究所における招待講演で報告するとともに、復旦大学出土文献与古文字研究中心が編輯する学術誌に論文を発表した。また水泉子本に関する研究成果として、二本の学術論文を学術誌に発表した。このように漢簡『蒼頡篇』諸本のテキストの検討を当初の計画以上に進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた「蒼頡篇集解」および「蒼頡篇文字編」については、吉林大学の劉婉玲氏がそれに相当する内容の碩士学位論文「出土《蒼頡篇》文本整理及字表」(2018年5月)を作成されたとの情報を入手し、9月に吉林大学古籍研究所を訪問した際にデータの提供を受けることができた。また、これまでの研究によって『蒼頡篇』を中心とする秦漢簡牘文字の分析を行なうためには、その基礎的研究として漢簡『蒼頡篇』諸本の検討と『蒼頡篇』の復原が重要な課題であることが明らかとなった。 こうした状況を踏まえて、今後の研究においては、漢簡『蒼頡篇』諸本のテキストの検討を継続して行なうとともに、研究計画の一部を変更し、吉林大学古籍研究所から提供していただいた「出土《蒼頡篇》文本整理及字表」のデータにもとづき、「蒼頡篇集解」「蒼頡篇文字編」の作成後に予定していた『蒼頡篇』の復原作業を先行して進めていく。 これに関連して注目されるのが、新資料の漢牘『蒼頡篇』である。この資料は、2019年6月に劉桓編著『新見漢牘《蒼頡篇》《史篇》校釋』(中華書局)として公表されたが、その信憑性に疑義が出されたため、出版後に回収されたという経緯をもつ。しかし、回収前に入手した複数の研究者が復旦大学出土文献与古文字研究中心網站に発表した論文によれば、偽物でないことは種々の観点から明白であり、漢牘『蒼頡篇』は『蒼頡篇』の全体構造の解明において画期的な意義をもつ貴重な資料と見なされる。この点については、すでに第72回中国出土文献研究会(2020年3月1日、大阪大学)において「漢牘本『蒼頡篇』について」と題する報告を行なったが、今後さらに情報収集を継続し、本研究の資料として活用していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた図書が出版されなかったため。次年度の物品費に含め、研究用図書の購入に充てる。
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