4年の研究期間の最終年度にあたる今年度は、漢牘『蒼頡篇』(以下、漢牘本)を中心に検討を加え、『蒼頡篇』の全容の解明に向けて、研究を進展させることができた。 漢牘本は、2019年に劉桓編著『新見漢牘《蒼頡篇》《史篇》校釈』(以下、『校釈』)によって公表された新資料である。牘とよばれる幅の広い木板に、各牘(板)一章六十字(一行二十字×三行)が書写されており、上部には章数とみられる数字が標記され、『漢書』芸文志が記す漢代の閭里書師改編本(五十五章本)の体裁を伝えるテキストと見なされる。漢牘本は、これまで手詰まり状態であった竹(木)簡の綴連(配列)復原に有力な手懸かりを与え、『蒼頡篇』の全容解明につながる画期的価値をもつ資料と見なされる。 まず漢牘本にもとづき、拙稿「北京大学蔵漢簡《蒼頡篇》的綴連復原」(2019年発表)において提起した仮説の検証を行なった。その過程で『校釈』に示された漢牘本の章序(章(板)の順序)と北京大学蔵漢簡『蒼頡篇』(北大本)の綴連との間に齟齬が見られることに気づいた。そこで、あらためて漢牘本と北大本との詳細な比較分析を試みた結果、『蒼頡篇』を構成する「蒼頡」・「爰歴」・「博学」の各篇の押韻は、それぞれ特定の韻部に属するとの仮説が導き出された。この仮説にもとづき、漢牘本について再検討を加え、『校釈』の章序の一部を修正した私見をまとめた。 この研究成果は、まず、研究の概要と章序の一覧表からなる論文「漢牘《蒼頡篇》的押韻与章次」(中文)を復旦大学出土文献与古文字研究中心網站(インターネット)に発表した。続いて、押韻に関する仮説の構築と章序の推定に至る論証を詳述し、その後の研究による補訂を加えた論文「『蒼頡篇』の押韻と章序」(日文)を『島根大学教育学部紀要』第54巻に発表した。この論文は中国語に翻訳して、現在、中国の学術誌に投稿中である。
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