本研究では、日本語の動詞活用における音韻、文法、意味の関与について検討した。 初年度は、英国の研究協力者の研究室に6か月間滞在し、われわれのグループが行なった先行研究(未発表)を詳細に分析した。その研究では日本語の動詞を語末拍とその先行母音の2つの音韻情報によって活用一貫性の程度を4段階に分けた。また日本語の動詞は漢字+仮名、仮名のみで表記されるものなどがあるが、文字種により読みやすさが異なる。これを避けるため動詞をカタカナ表記し、基本語尾、タ系語尾を生成させた。これらが災いしてか実験の再現性が低く、また非語動詞の過去形生成(例、モサカブ→/mosakaNda/)が著しく困難であることが判明した。 そこで平成30年度以降は、新たな枠組みとして、活用の一貫性と、タイプ頻度つまり同じ活用パタンをもつ動詞(友達という)の数が与える影響を検討することにした。先行研究と同様に動詞を片仮名書きして呈示した実験と、文字種の影響を避けるため音声呈示した実験を実施したが、片仮名呈示の不自然さが明らかとなった。他方、音声呈示では、一貫性効果が得られた。つまり「る」で終わる動詞は活用が一貫せず、五段動詞と一段動詞が互いに敵対して足を引っ張り合うため、敵のいない一貫動詞(「す」で終わる「貸す」など)に比し反応時間が長く、誤りの多いことが分かった。 最終年度は誤反応分析を行い、一貫性効果が得られた。また、誤答の動詞の心像性は正答の動詞より有意に低く、動詞活用に意味が関与することが示唆された。活用が規則に従って行われるなら単語と非語の成績差はないはずだが,単語の誤答率は非語より低かった。 これらの結果は、動詞活用が規則によるとの仮説を支持せず、語彙情報(音韻/意味表象)に基づくことを示唆する。結果の一部は、第44回日本高次脳機能障害学会学術集会で発表した。
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