研究実績の概要 |
2022年度の研究実績は、①短期間のフィールド調査、②英語の編著に単著論文1本を出版、③日本語の共編著1冊のとりまとめと単著論文1本の出版、にまとめられる。 2022年4月のフィールド調査では、石垣島の民話やナラティブの詩的構造を調査するため、語りに出てくる繰り返し表現について、20代から80代までの男女にインタビューを行った。 論文に関しては、石垣島の旧盆アンガマ儀礼の精霊役の演者と観客との珍問答の分析を英語の編著(Humour in Asian Cultures: Tradition and Context)に単著論文の形で発表した。演者の装いやジェスチャー、音声といった記号要素を通して前景化されたユーモアは、主要演者による頻繁な話手交替や相槌、終助詞で一定のリズムを形成したり、オノマトペアやボケ、言葉遊びなどでリズムが崩されたりする中で、観客も協働参加型で行われていく様子を分析し、ことば、身体、事物、環境、文化の統合的な関係に主眼を置く「プルリ・モダリティ」(Kataoka 2018)の概念の有用性を示した。 年度後半は、共編著「ポエティクスの新展開―プルリモーダルな実践の詩的解釈に向けて」のとりまとめを行い、11月の出版を達成した。単著の章では、民族詩学の構造分析的手法により祭礼での何気ないやりとりにも秩序だったパターン(詩的構造)が一貫して見られることを示した。Hymes(1998)のバース・スタンザ分析に基づくと、本土の標準日本語が節・連レベルで3や5の奇数を好むとする先行研究(Kataoka 2009, 2010, 2011)の結果とは異なり、石垣島A地区の言語実践には偶数に収斂する詩的構築の傾向が強くみられた。2022年度全体で、儀礼にまつわる詩的実践の分析に終始した。
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