研究課題/領域番号 |
17K02753
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
矢放 昭文 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 招へい研究員 (20140973)
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研究分担者 |
関 光世 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (50411012)
鈴木 慎吾 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 講師 (20513360)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仮名音注 / 官話・土話両音併記 / 客家音 / SAYABLE CHINESE / 歐化語法 |
研究実績の概要 |
代表者の該当期間での研究実績は学術論文と『研究基礎資料集』である。研究論文には「『日本広東学習新語書』の「人称詞・方位詞」について」がある。1899年~1900年、日本統治が始まって5年を経過した時期に台湾で成立した『日本広東学習新語書』(神田外語学日本研究所蔵)収録の漢語語彙に対する仮名文字音注について『漢語方言字彙』等に基づき分析を進めた結果をまとめその一部を論文にしている。当該資料が収録する仮名音注は所謂「客家方言」語音の特色を反映しているだけでなく、文言音と見なしうる官話音も併記している。この「官話・土話」両音併記現象は、本研究が研究資料として元来採用の道光本(1849)・狩野本(1855)『華英通語』「長句類」が収録する単文の読音特徴を考察する上でも貴重な実例と見なすことが出来るために採用した。同書採用の方言字の字形・用法の特色は客家方言だけではなく粤語、ビン南語、潮州方言の特徴を示すことを報告した論文である。 代表者作成の研究基礎資料集は『天路歴程官話・土話対訳資料』である。W.C.バーンズ(1815-1868)が訳出した『天路歴程』の官話版・土話(粤語)版を文毎に対照させ、原著英文の語学特徴を考察する為の基本資料として編纂した。編集作業は新型コロナのために遅延したが今年2月末に完了しており、研究報告書への掲載を目的として最終作業を進めている。 分担者の該当期間における研究実績としては趙元任著「READINGS IN SAYABLE CHINESE (中國話的讀物)」(Vol.1~3)収録文体についての語法面での分析研究がある。新型コロナウイルスのために刊行に至っていない。基礎資料『不思議の国のアリス・3言語対訳資料』は、やはり新型コロナの影響をうけて作業が滞っているが、今年3月末に配列を完了しており研究報告書への掲載を目的として最終点検作業に入っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
代表者の研究計画は昨年度に続き、英粤対音資料、粤語土話版『天路歴程(正・続)』を基礎資料として進めている。後に加えた『日本広東学習新語書』(神田外語大所蔵、1889-1900成立)の仮名音注研究も進んでいる。同仮名音注が「官話音」「土話音」を併記する特徴は、本研究が追究する口語音描写の様相と、伝統的読書音の拘束外にある商業従事者が操る官話音・土語音を如実に物語っており、この時期の口語音の一面を解明する独自性を有する。 また(2)の計画も修正し土話版以外にJ・バニヤン(1628-1688)著“The Pilgrim’s Progress”(1678)英文、Oxford大学Bodolien図書館蔵文言版(同治 元・1862年)、官話版(同治四・1865年)も併せて「四種対照テキスト」を作成し書面粤語文体の特徴を究め、土話版文体が反映する代名詞など英文法項目についての漢訳様相の研究を進めており基礎資料作成の計画もほぼ完了している。但し新型コロナウイルスにより移動制限を避けられず「四種対照テキスト」作成に予想外の時間を費やしたが、阪大院生へのアルバイト委託によりほぼ完成している。但し成果の発表を予定していた学会(第24回国際粤方言研討會・香港嶺南大学)の政変による中止は講評獲得の機会喪失に直結し遅延の一因となっている。 分担者は趙元任(1892-1982)訳《阿麗思漫遊奇境記》、徐志摩(1897-31)主要作品等を資料としつつ歐化語法としての三人称代名詞性別分化現象、無生物 “它”、無形物“它們”の用例普及時期を初期資料に確認して従来説を克服している。一方で茅盾(1896-1981)、朱自清(1898-1948)等、五・四文学運動晩期活躍作家の作品群でび無生物“它”、“它們”の用例を集積し分析を進めているが、新型コロナウイルスによる行動制限という遅延要因を避けられない状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、新型コロナウイルス流行に起因する移動制限の困難を克服して前年度に立てた計画を実現することである。代表者は白話文体における歐化語法現象についての研究成果の一環として「四種対照テキスト」整備とそれに基づく文法対応関係解析作業を完遂させ、研究成果をまとめ『研究報告論文集』として内外に公刊する。 分担者は中国での補助調査実施と平行して茅盾(1896-1981)、朱自清(1898-1948)、瞿秋白(1899-1935)等、五・四文学運動晩期活躍の文学者作品の文体を資料とする研究を完遂し、その成果を年度末刊行の『研究報告論文集』に掲載する。 また研究推進の基礎作業として作成した代表者・分担者の共同作業によるLewis Carroll(1832-1898)原著“Alice's Adventures in Wonderland”、趙元任(1892-1982)訳《阿麗思漫遊奇境記》1922年刊、生野幸吉(1924-1991)訳『不思議の国のアリス』‘Through the Looking Glass’《走到鏡子里》1931年刊、生野幸吉訳『鏡の国のアリス』を各章・文毎に対照し編集を加えた「英中日3言語対照本」も併せて公刊する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス渦により対面協議を通じての報告書作成が実現できなかったことである。研究代表者・分担者ともに移動制限を受けており、計画実行に必要な立案・検討のための面談を十分に果たすことが出来ず、報告書作成の編集作業実施が困難な状況に陥ったことにより次年度使用額は生じている。 また分担者は補助調査のための出張を実行することができない状態が続いている。この点については、所属図書館を通じて資料を取り寄せ確認する方法に切り替えて実施し、その手続きを進める一方、特に趙元任の翻訳著作についての関連資料を補充購入することを目的として助成金を使用する。 さら継続している新型コロナ渦の状況をふまえつつ、代表者・分担者間の連絡方法をオンライン方式に切り替え、頻度を極力密にして報告書作成を進めるが、そのための消耗品購入にも助成金の一部を使用すると同時に、研究成果報告内容を項目別に分散し、各編を論文として学会誌に投稿公刊して編集作業の一助とする。投稿先は『集刊東洋学』、『京都産業大学論集』、『神田外語大学日本研究所紀要』(投稿期限は各々8月末、9月末、10月末、いずれも査読有)を予定しており、そのための資料、消耗品購入と投稿に要する経費の一部としても助成金を使用する。最終的には報告書印刷費用・郵送費に併せて全額を使用する計画である。
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