研究実績の概要 |
手話話者が日本手話(JSL, Japanese Sign Language)と日本語対応手話(SJ, Signed Japanese)を(語順、文法等)理解する際の脳活動を観察することで、日本手話に、あるいは日本語対応手話に固有にかかわる(文法処理の)脳内メカニズムを明らかにすることに重点を置いて研究を行った。木村(2011)は、日本語対応手話(または、手指日本語)は、日本手話の単語を借りて日本語の言語構造に合わせて表現するものと定義している。また、日本語対応手話には、文法機能を持つ非手指標識(NMM: Non Manual Markers)がないため、日本手話話者にとって日本語対応手話は、不自然でジェスチャーに近いものと(脳が)認識する可能性が非常に高い。このように、日本手話と日本語対応手話には<文法機能>を担っている非手指標識があるかないかという大きな違いがある。一方、日本語対応手話に、顔に表情がなく眉の上げ下げ、視線、あごの動き、マウスジェスチャーなどのような文法機能がないとはいえ、日本手話話者も相手が伝えようとする大まかな内容は理解できるはずである。しかし、「大まかな内容が理解できる」ということが、(文法機能を持つ)日本手話を理解(脳内処理)する際とまったく同じであることを意味するものではない。それを確かめるために、日本手話話者を対象に日本手話と日本語対応手話を理解する際の脳活動をfMRI装置を用いて計測した。結果によっては、手話も日本語と英語のような文法機能を備えている言語の一つであり、また、なぜ教育現場で日本語対応手話ではなく、日本手話の教える必要(必然)性があるかを、社会に強くアピールするきっかけとなる。
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