研究実績の概要 |
本科研費プロジェクトでは、言語の処理に敏感な事象関連電位成分である P600 の機能的意義を明らかにすることを目的とし、多角的な検証を実施している。2018年度では、P600 の安定的な検出に必要なサンプルサイズを特定するための研究を実施して論文を執筆し、International Journal of Psychophysiology に採録された (Yano, Suwazono, Arao, Yasunaga, & Oishi, 2019)。当該論文では、オッドボール課題で観察される P300 が 5-7名分のデータを加算平均することで安定的に検出されるのに対し、P600 の安定的な検出には 20-30 名分のデータが必要であることを明らかにした。 また、実験文を視覚呈示した場合と聴覚呈示した場合とで P600 の現れ方に違いが生じるかどうかを検証するための実験を実施し、呈示モダリティの違い(すなわち視覚呈示 vs. 聴覚呈示)だけでは P600 の振る舞いに違いは生じないが、それに加えて実験文で用いる名詞句のある特性の操作によって違いが生じることを明らかにした。具体的には、実験文中に登場する人物を人名で表した場合と普通名詞で表した場合とで呈示モダリティの違いによる影響が生じることを明らかにした(荒生, 2019, 第4回坂本勉記念神経科学研究会)。これらの研究成果は P600 が文処理のある側面(例えば統語的情報の処理)のみを反映している訳ではなく、文処理装置が様々な外的要因の影響を受けつつ処理を実行している、言い換えるならば、外的要因に柔軟に対応して処理の内容を変更している事を示唆していると言えよう。
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