研究課題/領域番号 |
17K02767
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 和之 弘前大学, 人文社会科学部, 客員研究員 (40133912)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | やさしい日本語 / 外国人住民 / 外国人観光客 / 避難誘導 / 放送文の読み方 / 地震災害基礎語彙 / 大雨洪水土砂災害基礎語彙 / 南海トラフ地震 |
研究実績の概要 |
大規模な災害が起きたときの災害情報や避難誘導は日本語能力試験旧3級(N4相当)までの語と文法による「やさしい日本語」を使うと日本に住む外国人へ確実に伝わることを実証してきた。情報を伝える側は翻訳の手間や誤訳を避けられ、正確な情報を速やかに伝えられることも実証した。 2020年度は首都直下地震や南海トラフ地震に備え、災害発生直後や災害下で使える「やさしい日本語」の情報を、とくに住民サービスをする行政や外国人支援ボランティアの手本となる資源と自在に作れるようになる資源、また具体的活用の有効性を担保する研究を行った。研究成果は以下の通り。 「これまでに経験したことのないような大雨」と表現される豪雨が増え、これに起因する河川氾濫や土砂崩れなどの災害も増えている。地震で地盤が緩んだ被災地への豪雨は被災者をさらなる危険にさらす。このことの軽減を目的として、外国人が必要な重要語(大雨・洪水・土砂災害基礎語彙100)を確定し、これらを「やさしい日本語」で言い替えた。 大雨・土砂災害に関する語は広島市での土砂災害(平成26年)と西日本豪雨(平成30年)での230記事、のべ13,548語から、また大雨・洪水災害に関する語は常総市での鬼怒川水害(平成27年)と倉敷市での西日本豪雨(平成30年)の101記事、のべ15,709語から選出した。使用頻度の高い順に100語を選び、3級と4級(N4・N5)の語で言い替えた。さらに日本語力初級の外国人(16名)へのアンケートで8割以上が理解することを確認し公開した。語によっては2級・1級・級外でも8割以上が「分かる」と答えた語は言い替えずそのまま使った。 大雨・洪水・土砂災害基礎語彙100は地震後の情報を補い、近年の「ただちに命を守る行動をとってください」や「これまでに経験したことのないような大雨」といった注意や避難を強く促す情報の伝達に極めて有効である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京都オリンピック・パラリンピック(以下大会)の多言語対応協議会は「言語の中でも難易度があるため―中略―わかりやすい情報発信(「やさしい日本語」)が求められています」とし「多言語対応の手段として「やさしい日本語」を広める」指針を示した。今期の「やさしい日本語」研究では国際イベント開催中の大規模災害を想定し、外国人住民や観光客を安全に避難誘導するための情報提供を検討している。 このことに関連し総務省消防庁(外国人来訪者や障害者等に配慮した災害情報の伝達及び避難誘導に関する教育・訓練)は「火災や地震発生時に、外国人来訪者や障害者等に配慮して―中略―初動対応における行動方針、「やさしい日本語」による避難誘導などに関する教育・訓練の進め方や内容等を具体的に提示」することを日本の各自治体に通達した。 また東京都は「日本に住む外国人に情報を伝えるときに、すべての外国人に対して母語で情報を伝えることはとても困難なため、「やさしい日本語」による情報発信が有効的であり、都民安全推進本部でも「やさしい日本語」の活用を進めています。」としている。国営放送は「災害の多い日本で暮らす外国人に不可欠な「命を守る情報」を「やさしい日本語」で伝えましょう。そのコツとポイントをミニドラマでお届けします」の文言で「やさしい日本語」を使った災害時対応のドラマを複数本作成し、気象情報に合わせて放送している。 このように研究に関わるプラグマティックな目標は達成できたと考え「順調に進展している」と報告した。一方で2020年度の目標には大会開催時の「やさしい日本語」の活用を調査する計画も立てていたが、COVID-19の影響で大会開催が延期になったため「やさしい日本語」の活用検証が進まず「おおむね順調」と評価したものである。
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今後の研究の推進方策 |
今期の研究では、南海トラフ地震や首都直下地震に備える基礎自治体が「やさしい日本語」を使って外国人住民や訪日外国人の安全を確保できるようにするプラグマティック研究も基軸にしている。そこで研究期間後半では日本語が伝わらない外国人観光客の安全確保に「やさしい日本語」を活用する仕組み作りを進めた。基礎自治体等の実務担当者が「やさしい日本語」を減災のための伝達方法として使うにはこれまでの研究成果をプラグマティックな観点で見直す必要があった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを実践例に検証の予定だったが、2021年への延期や海外からの観戦客の日本入国を断念したことから「やさしい日本語」の活用検証は限定的になったが、他方でCOVID-19の影響から「やさしい日本語」を活用した地域防災計画を立案する基礎自治体からの依頼もあり、それら自治体との検証計画を進めている。 これまで「やさしい日本語」研究の成果は弘前大学ホームページで公開してきたが、実務担当者が使うにはページの構造が複雑だったりエビデンス重視の成果公開だったりして災害時の活用には変更が必要で、日頃から「やさしい日本語」情報の手本や根拠として使える形式へ改善することにした。具体的にはこれまでの研究成果をInformation and Communication Technology(ICT)に適応させたスタンドアローン型の「やさしい日本語」資源にする。ICTによるプラットフォーム化で「やさしい日本語」のプラグマティックな社会適応を可能にし、自治体職員やボランティア職員はタブレットを使った日頃からの資源活用が可能となる。このことで災害時も緊急の情報を自在に参照、提供できるようになり、一つめの検証研究と合わせプラットフォームとしての「やさしい日本語」情報の提供研究を展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピック(以下大会)の延期により「やさしい日本語」の検証が滞ったことは今後の研究の推進方策に記載した通りである。 「やさしい日本語」は日本に住む外国人の命を守る表現として提唱されている。他方で「やさしい日本語」を外国人観光客の安全確保にも使いたいとの考えが広まっている。日本語がわからない外国人の災害時の誘導に「やさしい日本語」を活用するには、外国人観光客や短期滞在外国人の理解を確かめる必要がある。今期研究の最終年度(2020年度)には大会開催時の「やさしい日本語」の活用と有効性を調査する計画だった。 COVID-19の影響で大会が延期になったことや調査者の居住地外への移動と被調査者への対面調査を控えざるを得なかったことなどから「やさしい日本語」の活用調査が滞った。COVID-19後の訪日外国人4000万人時代を見据え「やさしい日本語」を大規模災害発生時の外国人観光客や短期滞在外国人へも適応可能か調査することは重要である。 調査に使う「やさしい日本語」のInformation and Communication Technology(ICT)開発は2020年度も進めており、検証調査を残すだけになっている。そのための通信費と旅費を2021年度経費に計上した。
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