研究課題/領域番号 |
17K02767
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 和之 弘前大学, 人文社会科学部, 客員研究員 (40133912)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | やさしい日本語 / 外国人住民 / 外国人観光客 / 避難誘導の表現 / 地震災害基礎語彙 / 大雨洪水土砂災害基礎語彙 / 南海トラフ地震 / 首都直下地震 |
研究実績の概要 |
日本が直面する首都直下地震や南海トラフ地震に備え、外国人住民への避難の指示表現や安全を確保する表現、また被災したときに必要になる情報を「やさしい日本語」で伝える研究を進めている。避難や災害の情報を「やさしい日本語」にして知らせると、その外国人が漢字圏の出身か非漢字圏の出身かに関わらず、日本に住む誰も(80%以上の外国人住民)が行政からの指示を理解し行動できることを実証してきた。 また行政や外国人を支援する団体の人たちが「やさしい日本語」を使うことは、翻訳の手間や誤訳の不安から解放されるため、災害下で生じる新たな情報を迅速かつ確実に伝えられるようになることも実証した。さらに「やさしい日本語」での情報は、外国人だけでなく日本人の子供から高齢者まで、またある種の障がいをもった人たちにも伝わることから、災害時の情報を伝える手段として外国語より受け入れやすいと考えていることもインタビューと普及状況の調査から明らかになった。 2021年度はこのことを背景に、とくに南海トラフ地震や首都直下地震の発生を想定して、外国人支援に就く人たちが、地震などの突発的災害の発生時や大雨や洪水、土砂崩れといった早急の避難を伴う災害が予想される時に「やさしい日本語」での情報を容易に作り、伝えられるようICT化した「やさしい日本語」表現法の社会実装を試みた。ICT化とはデジタル化した「やさしい日本語」資源を使って、支援者たちが遠隔地(被災地外)にいながらもオンラインで情報を交換し、外国人住民の理解率80%以上を担保した災害時用の「やさしい日本語」で表現できる(「やさしい日本語」資源の最適化)ようになることを目指した情報伝達技術のことである。 ICT化した「やさしい日本語」の社会実装は、首都圏や関西圏にある複数の基礎自治体と一緒になって「やさしい日本語」での情報発信ができる研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究全体の進捗】 研究当初に掲げた「やさしい日本語」による災害時情報の伝達効果と普及活動は2020年までにほぼ目標を達成した。普及活動について触れると、東京都オリンピック・パラリンピック(以下、大会)の多言語対応協議会は、2020年に予定していた大会に向け「多言語対応の手段として「やさしい日本語」を広める」指針を示した。また同大会の開催に合わせた外国人観光客4000万人時代の避難誘導表現として、東京都は「日本に住む外国人に情報を伝えるときに、すべての外国人に対して母語で情報を伝えることはとても困難なため、『やさしい日本語』による情報発信が有効的」とし、都民安全推進本部も「『やさしい日本語』の活用を進めています」と広報した。総務省消防庁もまた外国人来訪者や障害者等に配慮した災害情報の伝達及び避難誘導に関する教育・訓練において「火災や地震発生時に、外国人来訪者や障害者等に配慮して―中略―初動対応における行動方針、『やさしい日本語』による避難誘導などに関する教育・訓練の進め方や内容等を具体的に提示」するよう各自治体に通達した。
【2021年度の進捗】 一方で、2020年度になってCOVID-19が大きく拡散したことから、2020年度の研究目標にあった大会開催時の「やさしい日本語」の活用状況を調査する計画は、同年の開催が延期になったことや他都市への移動ができなくなったことから臨地調査や対面調査を控えざるを得なくなった。大会は2021年夏に開催されたが、コロナ禍での開催だったことから外国人観光客の訪日はなく、「多言語対応の手段として「やさしい日本語」を広める」ことの活用検証が進まず、2020年度と2021年度の「やさしい日本語」研究はコロナ禍に対応した新たな展開を求められ、現在進行中である。このようなことから2021年度の研究状況を「おおむね順調に進捗している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
COVID-19(以下、コロナ)の影響により「やさしい日本語」研究目的の一つ活用の検証調査は限定的になったが、一方で首都直下地震や南海トラフ地震に備える自治体の協力により、外国人住民や訪日外国人の安全を担保できるようコロナ禍に対応した新たな「やさしい日本語」研究を展開している。具体的には、外国人住民や観光客の安全確保のために「やさしい日本語」で情報を知らせる仕組み作りと、外国人支援に就く人たちが突発的災害の発生や迅速な避難を要する災害時に、「やさしい日本語」での表現を容易に作れ、伝えられるようにするInformation and Communication Technology(以下ICT)化した「やさしい日本語」表現法の社会実装研究である。 災害の発生時に実務担当者が「やさしい日本語」での表現で速やかに伝えられるようにするため、これまで公開してきた「やさしい日本語」を使った表現の手本をICTに適応させ、かつ災害下でも使えるようネット環境に依存しない「やさしい日本語」資源に改善する必要があった。同資源をICT化させることにより「やさしい日本語」の活用範囲は広がり、このことで自治体職員やボランティアスタッフはタブレット等を使った日頃からの資源活用が可能になる。災害時には緊急性の高い情報の「やさしい日本語」表現を自在かつ速やかに参照、発出できるようになる。 ICT化ではまた、「やさしい日本語」についての概説から表現法、SNSを使った伝達法など、伝え手がどこにいても都合のつく時間に習得できるようにもなる。さらには互いが遠隔地にありながら外国人を支援する団体や個人が連携し合い、災害時に必要な情報の提供をオンラインで融通できるようになる。 コロナ禍で普及したテレワークの仕組みを活用し、外国人被災者支援の対応策としてICT化した「やさしい日本語」の社会実装研究を計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
東京オリンピック・パラリンピックは2021年夏に開催されたが、コロナの影響から調査者の居住地外での臨地調査や被調査者への面接調査等を控えざるを得なかった。一方で、災害時の情報を「やさしい日本語」で発信しやすくするために取り組んだICT化の研究は順調に進めることができた。 ICT化した「やさしい日本語」資源の社会実装について臨地調査することは、「やさしい日本語」の有効性や安全性を担保する科学的根拠を得るうえでどうしても必要な研究過程である。南海トラフ地震や首都直下地震の発生を想定してこの間も協力を得てきた首都圏や関西圏にある自治体での実施例や意見を聴取する調査を計画している。とくに2025年に大阪・関西万博を予定している大阪府は「やさしい日本語」の普及率が全国最多の地域であり、そのための通信費や旅費を2022年度に計上した。
|