本研究では、宋版一切経中の『大般若波羅蜜多経』(大般若経)に対象を絞り、諸版の附載音釈を比較することで、学界未公開の実態を明確にする。その上で、宋版一切経付載音釈が日本の『大般若波羅蜜多経』および『大般若経音義』の音注に与えた影響について調査・考察・資料公開を進めた。 令和元年度は、以下の研究を行なった。 1.データ整理・確認 初年度からの宋版一切経諸版音釈ならびに『大般若経』日本古訓点資料・音義のデータベースを完成させ、データの確認作業をした。 2.データ分析 上記のデータを活用して、宋版一切経諸版音釈の異同を明らかにし、院政期~南北朝期の『大般若経』日本訓点資料ならびに『大般若経音義』への影響について考察した。 3.原本調査 原本でないとわからない点について、原本閲覧に出向き、確認した。 4.研究成果の公開 最終年度である本年度は、漢字音情報データの最終確認とその分析・研究を行ない、研究成果公表の準備を進めた。 また、研究期間を通じて、日本における『大般若経』訓点資料の実態を翻刻の形で公開するとともに、その訓点から知られる事柄についての論文を発表した。加えて、宋版の日本古写経への影響は、書写一切経における底本として宋版を用いた具体例を示すことができた。 しかし、宋版一切経付載音釈が日本の『大般若波羅蜜多経』および『大般若経音義』の音注に与えた影響の具体例を指摘できていない。今後も、この観点からの研究を続けたい。
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