本研究は,日本語史上における近代語にスポットを当て,現代語文法が確立していく様相について明らかにすることを目的とするものである。期間内においては,語用論的観点および統語論的観点を中心とし,名詞化構文からコピュラ構文,丁寧表現から敬語表現・配慮表現へと展開する形で,考察を広げた。また,体系的視点から,述語と格体制を含めたヴォイス構文,補助動詞構文についても考察を行った。 最終年度にあたる2022年度は,編著書2編,論文2編,書評・展望論文2編を発表した。本科研の研究計画調書を作成した段階で予定していた具体的な研究内容は,2020年度までにすべて成果として発表したが,2021年度以降は,それらの研究を進める中で得られた新たなテーマについて研究を行った。 特筆すべきは,文献学的研究と一体となった言語研究を推し進めることができた点である。近年,歴史コーパスの整備が急速に進められ,言語史研究は大きな転換期を迎えている。コーパスを使用しない言語史研究はほとんど見られないという状況であるが,その使用の前提として,コーパスに収められた資料の精確な理解が必要である。当該の言語事象が,資料の性格とどのように関係し,どのように反映しているのかを考慮しなければならないが,そうした点をふまえた成果を数多く示すことができた。 最後に,科研費の共同研究グループ「日本語と近隣言語における文法化の基礎的研究」(基盤研究B,代表者:ナロック・ハイコ),および,国立国語研究所の共同研究プロジェクト「通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開」(代表者:小木曽智信)と連携することで,多くの成果を上げることができた点を付言しておく。前者は次年度に編著『日本語と近隣言語における文法化』(ひつじ書房)として出版予定であり,後者は本年度に編著『コーパスによる日本語史研究 中古・中世編』(ひつじ書房)として出版した。
|