研究課題/領域番号 |
17K02782
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
米谷 隆史 熊本県立大学, 文学部, 教授 (60273554)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 所童早合点 / 東北方言 / 古辞書 |
研究実績の概要 |
年間を通じて感染症拡大予防への配慮が求められたことから、県境をまたぐ出張立案が難しく、当初計画にあった各地の文献資料調査は全て未実施に終わった。年度中頃より、年度内は現地調査に立脚する分析を進めることは困難と判断し、比較的早期から編纂者に関する情報が整っていた、盛岡藩領見前村在住の星川里夕編、文政5(1822)年頃成立の『所童早合点』について、辞書本文の分析を進め、研究論文の執筆と刊行までを行った。 この論文では、『所童早合点』を含む星川里夕の著述8点の概略を示し、以て里夕が地域の文化人として相応の学識を有していたことを明らかにした。また、地理関係の語彙の収録が盛岡周辺に手厚い事などから地方往来物としての性格を明らかにすると共に、見出語「蜘蛛(くも)」に対して「世にくぼ」(蜘蛛をクボと称するのは同地の方言)、「鼾(いひき)」に対して「世に鼻音といふ」(鼾をハナオトと称するのは同地の方言)、「破風(はふ)」に対して「世にかほといふ」(家の破風をカオと称するのは同地の方言)といった注が付されることを指摘しつつ、規範的な中央語を解説する際に方言語彙を用いる実例が存することを述べた。これにより、東北の文化人が方言語彙を意識的に初等教育の場で用いていた確例を一つ加えることができた。申請者はこれまで、近世の東北各地において方言を意識的に反映させた版本が出版されていたことを明らかにしてきたが、そうした営みの裾野の広さを証する結果になったともいえる。さらに、『所童早合点』は意味分類型の語彙集とイロハ分類の語彙集とを統合した形態をもつが、こうした形態の辞書は、室町期においても方言の反映が顕著なものが多いことも併せて指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上述のとおり、計画していた東北等での文献調査を全て延期せざるを得なかったことから、『所童早合点』以外に注目してきた秋田県角館の『烏帽子於也』、福島県三島町の『雑補弁略銘記』に関する最終的な分析を完了させることができず、昨年度で完了予定の計画を再度1年間延長することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
5月中旬現在、本年度中も昨年度と同様に東北等における文献調査を実施する見込みが立たないことから、これまでに収集した資料をもとに、『烏帽子於也』と『雑補弁略銘記』の編纂資料に関する分析を継続して進めることにする。特に後者については、昨年度の調査において、近世中期の節用集諸本の中でも『増続字海節用大湊』に類する辞書本文を持つ一本が参照された可能性が高いことが判明したため、付録部分の内容の一致も含めた総合的な対照を行いつつ、依拠した節用集の特定を目指すことにしたい。 なお、年度後半に感染症の拡大傾向が抑制された場合は、速やかに秋田県及び福島県における現地調査を実施し、分析の精緻化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行拡大に伴い、計画していた文献調査を全て延期せざるを得なかったため、旅費分が全て未執行となった。年度中頃からは、各辞書の地域性の分析と共に、辞書史上の位置づけを明確にしてゆく方向へ研究をスライドさせて分析を進めることとし、関連の書籍購入を行った。しかし、当初に想定した研究水準に到達するためには最終的な現地調査が不可欠と判断したこと、その判断を行った時点では2021年度はワクチン接種の広がり等により東北での文献調査実施が可能と推測したことから、残額を次年度使用額として繰り越すこととした。 2021年度も現段階では感染収束の見通しが立っていないことから、この状況が年度末まで続くと判断された場合は、辞書史上への定位に関する面の分析に資する書籍の購入を行うこととする。県境をまたぐ移動の安全性が確保される状況になった場合は秋田県、福島県における文献調査を速やかに実施する。
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