研究課題/領域番号 |
17K02784
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
前田 直子 学習院大学, 文学部, 教授 (30251490)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 条件表現 / 複文 / 複合辞 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究目標は、次の3点であったが、いずれも下記の通り、実施することができた。(1)これまでの複文研究・複文の分類の歴史を整理する:これについては、12月に単著論文「『基本文型の研究』における条件文の分類」(『時間の流れと文章の組み立て-林言語学の再解釈』ひつじ書房)を刊行した。この論文は、日本語の記述研究の先駆者の一人でありながら、これまでさほど注目されることがなかった林四郎氏の複文研究について、現代の研究視点から照射したものであるが、本論文では特に条件文の研究に焦点を当て、その問題点を指摘するとともに、林言語学の先見性を改めて示すことになった。本年度はほかにも、本課題に関わる2本の研究論文を発表した。(2)意味的な研究を参考に、また実例を観察しつつ、事例を幅広く集め、どのような意味分野同士に接近が見られるかを、網羅的に調査する:これについては、大学院生の協力を得て、接続助詞資料を収集した。本年度は「標準語」が使用され、言語使用にゆれがなく安定している現代の散文(近現代の小説)をデータに用例を収集した。(3)「~ば~ほど」に関する記述を進める:これについては、8月に東京外国語大学において「日本語教育と複文研究-「~ば~ほど」と「~ば~だけ」をめぐって-」を口頭発表した。この発表では、条件接続辞「ば」を含む複合辞の中で、研究がそれほど進んでいない「~ば~ほど」「~ば~だけ」それぞれの意味・機能を記述し、両者の意味的・文法的な違いについて分析・考察したものである。「~ば~ほど」は他の条件接辞には置き換えられず「ば」によってしか表されない特殊な条件複合辞である点が特筆すべきであり、研究の結果、形態的には後者に近い「~ばそれだけ」が、機能的には後者ではなく前者に近いことなども新たに判明した。当日は参加した研究者から多くのコメントを頂戴することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は「研究実績の概要」に示した通り、3つの目標を立てていたが、いずれも実現することができた。さらに、それだけでなく、当初の予定を超えて新たに2本の研究論文を発表することができた。これはいずれも本年度の研究成果としてだけでなく、本課題に応募する準備段階として、それ以前から積み重ねてきた研究の成果が、本年度の研究課題として改めて完成し、発表することができたということでもある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画においては、2か年目は(1)データの収集を進めること、(2)条件表現と時間表現との関連についての検討を開始することを目標としていた。よって、本年度はこの2点を中心に、加えて、昨年度の研究成果をまとめること、昨年度の成果から新たに展開した問題点について検討することを目標とする。本年度は、まず第一に、昨年収集した散文データに加えて科学的評論文から用例を収集する。第二に、昨年度に口頭発表を行った「~ば~だけ」「~ば~ほど」に関する研究を、論文として発表することを目標とする。第三に、当初の予定の通り、条件表現と時間表現との関連に関する研究を開始する。具体的には、条件表現として「と」節・「たら」節、時間表現として「て」形節を取り上げ、手始めとして「と」「たら」「て」の前に授受表現が出現する場合、すなわち、授受表現が複文従属節に出現する場合を中心に検討を開始する。授受表現が主文末に出現する場合については、授受動詞が本動詞として使われる場合であれ、補助動詞として使われる場合であれ、これまでも数多くの研究がある。というよりも、主文末に出現する授受表現しか研究されて来なかったといってもよく、従属節に出現する場合についての研究はほとんど見られない。よって、本研究はこの点に注目していく。従属節に出現する場合、最も多いと予想されるのは「て」形節であるが、それと意味的に類似した「と」節・「たら」節の場合を検討することにより、3つの従属節の相違についての新たな研究となることが期待できる。それとともに「授受表現がなぜその従属節で使用されるのか」を検討することにより、授受表現が持つ意味的な機能だけではなく文法的な機能についても考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を補助するアルバイト(大学院生)の雇用の手続きが遅くなったため、当初予定していた金額に達しなかった。本年度は年度の初めから作業を開始することによって、計画にそって使用する。
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