研究課題/領域番号 |
17K02790
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
田辺 和子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60188357)
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研究分担者 |
井上 史雄 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (40011332)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 話題敬語 / 敬語形 / 雇用形態 / 男女別 / 正規雇用 / 契約社員 / 聞き手階層 / 行かれる |
研究実績の概要 |
本年度は、雇用形態別の話題敬語に対する態度についてのデータを採取し分析した。その結果、被験者の雇用形態と性別によって「行く」の使用敬語形が異なり、さらに話題敬語の継続についての態度も異なってくることが判明した。具体的には、正規雇用の女性は、「いらっしゃる」を多く用い、聞き手の8階層(1.校長 2.話題者の同僚の先生 3.用務員 4.先輩 5.クラスメート 6.親しい友人 7.後輩 8.妹・弟)のうち、4番目まで、話題敬語を使用する傾向が高かった。これに対し、男性の正規雇用は、上位1.校長先生 2.同僚の先生までしか使わない傾向が強く見られた。また、女性契約社員は、「行かれますか」を好み、社会階層としては、4.先輩レベルを超えて、雇用形態の中では、一番幅広く話題敬語を使用する傾向が見られた。 次に、男性は、3つの雇用形態(正規雇用・契約雇用・アルバイト)に、話題敬語に対する態度の差は、あまり見られなかったが、女性は、雇用形態によって、明らかに使用敬語形が異なった。特に、契約社員が、他の二つのグループ、正規雇用とアルバイトとは、明らかに異なった態度を示した。契約雇用の女性は、聞き手を、自分より身分が高い人、用務員・先輩・クラスメートという中間層、自分より身分が低い人という三つの階層に分けて意識して変異形を使い分けていることが判明した。組織の中で、自分の立場を意識し、それがグループ化し、ひいては、ある特定の変異体の言語使用集団としての特徴を帯びた振る舞いをするようになっていることが考察できた。性別により組織内の集団化・連帯化の強さに違いがあることがデータによって、証明できたことは、本年度の研究成果といえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究申請時に示した二つの仮説①日本語の敬語の大きな特徴であった話題敬語が使われなくなり始めていて、聞き手にだけ配慮する対者敬語のみが使用されつつある。②雇用形態にって話題敬語維持への態度(強い態度で支持するか、それほど強い題度で使用しようとは思っていないか)が異なることが、ほぼ証明されてきている。現在は、雇用者別敬語意識のデータにおいて、契約社員の被験者数が36名と少ないため、補充して100名としてデータの信頼性を高めて、さらなる考察をしているところである。契約社員の数を多くしたところ、正規雇用のグループとの差異もより明確になった。さらに、聞き手階層別の話題敬語使用において、契約社員グループが、自分たちと同等の身分、すなわち、クラスメートや親しい友人において、一時的に話題敬語の使用を控える微妙な行動も認知できてきた。 老人の敬語使用についての調査は、大田区、豊島区のシルバーセンターの登録者にインタビューをして、引退後の敬語観を語ってもらいその談話を分析している。これは、多数のアンケートによる調査よりも、質的研究としてインタビューを中心に行っている。老人といっても幅が広く、範囲の設定の必要性を感じている。シルバーセンターへの依頼でインフォーマントに統一性を取りたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の目標としては、①雇用者別敬語使用調査において、契約社員を増やしたデータを解析する。②記憶時間を利用した母親向けアンケート調査の第2回目を行う。これは、自分の子供に話題敬語を使うかという問いで、話題敬語の継承が家庭でなされているかを調べることができる。③老人の敬語使用調査を行う。インタビューの内容としては、a.役時代と現在では、敬語に対する考えや、使用行動に差があるか、b.年下の人からは、どのような言葉使いを期待するか、c.[一番お世話になった人」「今でも尊敬している人」について尋ね、話題敬語が使用されているか見る。これを、テキスト分析ソフトN-vivonにいれ、コード化を図りたい。これによって、老人の敬語使用の実態のみならず、老人の敬語意識についての実像をあきらかにしたい。いままでのインタビューでは、現役時代をふりかえると敬語の使用に気を使ってきたことが大半の被験者から答えが得られたが、現在のボランティアなどの活動においては、特に年上の人以外には、自分もまた年下のひとにも敬語使用に気を使うことには、あまり積極的に支持する意見はない。話題敬語においては、意識する人とすでに思い出となっていると話題敬語は、使わない傾向がうかがわれた。本年度は、被験者の年齢、引退後の年数、現在の社会活動の有無、などの条件によってグループ化をはかり、その集団ごとの特徴をまとめたいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては、以下の3点である。 ①老人のインタビュー人数が、計画していた人任数より少ない人数だったため謝金が少なくなった。②人件費が、計画していた時間数より少なく済んだ。③消耗品の購入額が、予算より少なく済んだ。 本年度は、老人インタビューを多くし、また、国際学会(カナダ・中国)に参加し、データをまとめる作業を進める計画である。
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